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愛情

 

「ほーう!! これは面白い! お前がまさか、こんなことになっているなんてな!」

 ……何てことだ……。本当に……、大失敗だ……。

 今日は健康診断の日なんかじゃなかった。だから昨日の夜は、ザックスと俺はそれはもう濃厚に抱き合った。それこそ、おれがぐずぐずになるまで思いっきり甘やかされた。

 それでも、おれの体はこまめに検査されるから、念のためいつもは絶対に跡なんかつけさせたりしない。

 ……なのに! なのに!!!

 どうして昨日の晩に限ってあいつはキスマークなんてつけたんだ!

 しかもおれに見えないところ、なんと臀部につけやがった。そしてまた、なんでよりによって宝条は緊急メンテナンスなんて言い出したんだ。まさか跡がついてるなんて思いもしなかったが、それでも今日はマズいと思って逃げようとしたんだ。

 ところが研究員が10人も出てきたかと思ったら、その場でスリプルを掛けられたらしく、そこから意識がない。気が付いたらこのポッドの中にいた。しかも全裸で。憮然としながらも、いつものことだと割り切って、メンテナンスが終わるまで大人しくしててやったんだ。

 中で、うつらうつらしてる内にポッドが空いて、宝条が終わりだって言うから、これまたいつも通り全裸で堂々と歩いて検査ベッドに横たわった。で、体をひっくり返された途端、宝条が「跡」を見つけたって訳だ。

 ……何の嫌がらせなのだろう。誰かが仕組んだとしか言いようがない悲劇じゃないか、全く。

 偶然ってここまで重なるものなのか!?

「なんのことだ? どうかしたのか?」

 ……もう、ここはシラを切るしかないじゃないか……。

「隠すことはないさ。情熱的な恋人がいるんだろう?」

「何を言っている?」

「お前の臀部に、性交渉をした証の跡が残っているんだよ」

「……虫さされの跡じゃないのか?」

「お前の身体のことで誤魔化しが効くとでも? ックックック、それはキスマークだ」

「………」

「しかもそんなところ、お前男に抱かれたんだろう?」

「なっ!!!」

「困るんだよ、セフィロス。君は私のサンプルだ。勝手に私の知らないところで男相手に性交渉などして、お前の身体に傷でもついたらどうする?」

「……どこかで子供を作ってくる心配はしないのか。」

「心配ぃ?? クァックァックァ!!! 何を心配する必要がある。その時は、女と子供をサンプルとしてここに運ぶだけだ。貴重なサンプルが得られこそすれ、心配することなんて何もないのだよ……」

 おれは結婚なんてできないな。家族みんなこいつに奪われるんだろう。

 ……まあ、絶対にありえない話だが。

 ……ん? いや! 何を考えているんだおれは!!! ザックスと結婚だなんてそんな乙女の夢みたいなこと…!!

「どこで何をしようと、おれの自由だ」

「クックック、お前は本気でそれを言っているのか? ならば、子供の時と同じようにしてやろうか? ん? 何も怖いことなんてなかっただろう? 今では他人を守る立場のお前だが、子供の時は、それこそこのラボの中で大切に大切に、全てから守ってやっただろうが……」

 宝条が近づいてきて、おれの顎を上げさせる。そのまま瞳を覗き込まれる。

「……セフィロス。私はそうしてほしいのだがな。お前のデータなら、ラボでだって充分録れる。ここでいつでも実験ができるし、美しいお前に傷がつくところをもう見なくて済むのだからな。」

 冷えた指、気色が悪い目つき。

 なのにどうしてか、おれの顎をそっと持ち上げる指は優しいと言えるものだ。

「……断る」

「クァックァックァ! 好きにしたら良い。なんでも、お前の思う通りにしたら良いさ」

「……セックスは咎めるくせに」

「お前が傷つくなら話は別だ。……そうだ、良いことを思いついた! セフィロス、そこに仰向けに寝なさい」

 おい、何を思いついた。おれに何をする気だ……。

「怖いことなんかしない、大丈夫だ。ほら、そこにゆっくり寝るのだよ」

 いやだ、怖い。何かおれにとって嫌なことをしようとしている。

「セフィロス、どうした? ほら、良い子だ……」

「だっ! 誰が子供だ! バカにして!」

 ……しまった、そんなムキになっている場合じゃないのに……。

 ここから逃げることはできない。あのドアはおれには解除できない。

 走って逃げたって、どうせすぐに麻酔を打ち込まれて前後不覚の内に好き勝手される。

 武装は解除されていて、何も身に纏っていない。実力行使なんてしたら、その後が怖い。

「寒いのか? タオルケットを持ってきてやろう」

 とうとうおれは彼に屈し、渡されたもふもふのタオルケットにくるまりながら仰向けに横たわった。

「緊張を解しなさい。私がお前を苦しめるわけがないだろう……?」

 そう言って、検査台に両手を拘束される。顔に落ちかかった髪を丁寧に払われ、落ち着くくらいの明るさに照明を落とされる。そして、どこからか、甘いバニラの香りが漂ってきた。

 セフィロスはそっと瞼を閉じた。

 バニラの香りは好きだ。どうしてか、この香りを嗅ぐとリラックスして腑抜けてしまう……。

「セフィロス、膝を立てて、足を開け。……大丈夫だ、検査するのだよ。医者を恥ずかしがる者がおるかね?」

 おれは、何も考えずに言われた通りにする。手術用手袋をはめてワセリンを纏った宝条の指が、ゆっくりとおれの股の間に消えていった。

「ふくっ……!」

 指で数回慣らした後、何か金属のようなものを後孔に挿入され、ペンライトで照らして観察される。先ほどからピリピリとした痛みが秘所にある。結構辛い。切れているんだろうか。

「……やはり傷ついている。きちんと事後の手当てをしないとダメだろうが」

 宝条はそう言って、そっと検査器具を抜き取って、検査台から離れていく。おかしいな。昨夜だっていつも通り、ちゃんと慣らしてから挿入されたのに。

 宝条は手に何か持って、すぐに検査台に戻ってきた。

「ちょっと冷たいが、我慢しなさい」

 ああ、薬を塗られるんだろうか。すぐに胎内に再び入ってきた指の感触で、それが正しいことが分かった。

「……っ! ……!!」

 …おい、ちょっと、嘘だろう……!?

 おれのナカで宝条の指がうごめき、あらぬ場所に触れられそうになる。

「……おいっ、もういいだろう!?」

「まだだ。奥まで塗らないといかん」

「やめろ! やめてくれっ! ……あ!」

 びくん、と体がしなった。……もう、最悪だ……。

「おっと、悪いな、前立腺か? ん?」

「…っく!! こ、の……!」

 ちっとも悪いなんて思っていないだろう。楽しそうに目を輝かせながら、指を動かし続ける。こちらの顔を見ながら、反応を調べるように執拗に内部を擦られる。

「……っはぁ! ……や、いやぁ……!」

 恥ずかしい、悔しい、耐えがたい屈辱だ!ザックス、お前以外にこんなことされるなんて……!

 

「……セフィロス、かまわん、出してしまえ。ここを刺激されて射精することは男として当然だ。誰でも同じだ」

 宝条が、まるでおれの思考を読んだかのような事を言う。

「私はお前の主治医だ。傷の手当てをしているだけだ。そしてお前は当然の反応をするだけ」

 そう言うと、コリコリと前立腺を強く刺激され、とどめとばかりに性器を扱かれた。

「ふぅっ! ……あああ!」

 ぴゅるるっ、と白濁が放たれる感覚。背が弓なりに反りつま先がピンと伸びる。は、は、と荒い息を吐きながら、余韻の気だるさに身を任せる。

「さすがに少々薄いな。まあいい。サンプルには十分だ。」

 ハッとして、クァックァックァッと笑う男の手元を見ると、試験管を持っている。中には……、

「───────っ!」

 やられた。騙された。

「おい……、どういうつもりだ!?」

 宝条を睨みつけながら低い声で問う。宝条はこちらを見てニヤリと笑った。

「涙で潤んだ瞳で睨みつける、顔は上気して声はかすれ気味……、なるほど、興味深い。お前はこんなことでも優秀だったのか」

 顔がカーッと熱くなった。

「恥じらうな。一石二鳥だろう? お前の治療とサンプルの確保。お前のDNAを保存しておく必要があるからな。」

 宝条は試験管と薬を持って再び診察台を離れ、タオルを持って戻ってきた。熱いタオルで顔を拭われ、そのまま下肢の始末までされる。手の拘束を解かれると、おれはすぐに飛び起きた。

「隣の部屋に脱がせた服がある。着てきなさい。」

 悪びれもせずしゃあしゃと……。おれはすぐに着替えに向かう。

 

 その後ラボから出ようと入り口に向かうと、宝条に紙袋を渡された。

「薬を入れてある。使いなさい。それから、抱かれた後は必ずここに来なさい。検査と手当てをしてやろう。」

 お前のためだ、と付け加えられても、とてももう来られない。あんな、あんな……!

「断る!!」

 おれは怒鳴りつけ、そのままロックが解除されるのを待ったが。

「No,135 ザックスフェア」

 その一言に固まった。

「胎内に残っていた体液を解析した。クックック、安心しろ。彼に危害を加えたりはしない」

「……何が言いたい」

 これは脅しだ。言うことを聞けと。弱みを握られた────────。

「セフィロス」

 ハッと顔を上げると、そこには真顔の宝条がいた。

「交渉を行った後にはここに来なさい。相手の体液が胎内に残っていて、お前の中は切れていたんだ。これがどういうリスクか、分からないわけではあるまいな?」

 ──────従うしかない。

「お前たちはソルジャーだ。普通の人間とは違う。何が起こるのかも分からない。後でNo,135にもここに来るように言いなさい。心配するな、彼に受けさせるのは血液検査のみだ」

 宝条はドアのロックを解除し、おれに薬を持たせた。おれはそのままラボを出る。そしてザックスにメールを打つ。

『宝条のラボに行け。呼んでいる』

 いろんな意味で、おれは迂闊だった。

 

 

 

「まったく、世話の焼ける……」

 宝条は試験管の中身を冷凍庫に入れ、微量はDNA解析機にかける。

 セフィロス、お前が私の手の中で生きる分にはまったく問題ない。好きなやつと一緒にいれば良い。そんな事には興味がない。だが、お前に害が及ぶのならば話は別だ。お前は永遠に、私の可愛いサンプルだ。

 

 程なくして、ラボにNo,135がやって来た。手早く血液検査をしてから、すぐにソルジャーフロアに帰した。

​Fin

​20150821

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