ゲーム
「それでは部長、お先に失礼致します」
「ああ、ご苦労さん。また明日」
その日ヴィンセントは、タークスの業務を定時から30分程過ぎた辺りで終えた。
荷物を鞄にしまうと、上司や同僚たちに挨拶をしてから、執務フロアを出る。無表情で歩いているが内心では、今日の夕食はなんだろうか、などと至極平和なことを考えている。
ああ、そういえばあれが今日は肉じゃがにするとか言っていたな。買っていくものがないかどうか聞いておこう。ヴィンセントはメールをするべく携帯を取り出した。
《今から帰る。何か買うものはあるか?》
送信すると、程なくして返信が来た。
《バターを頼めるか? 明日の朝食の分がもう無いんだ。》
そういえば今日最後の一欠片を自分が使ったなと思い返しつつ返答する。
《分かった》
送信すると、すぐに受信を知らせる振動。
《宜しく頼む》
ヴィンセントは携帯を胸ポケットにしまってまた歩き出す。顔が若干にやけている。コツ、コツ、と靴音を響かせていると、そこにルーファウスが現れた。
「やあ、今帰り?」
「お疲れ様です社長。はい、お先に失礼致します」
ヴィンセントは丁寧にお辞儀をして、その場を去ろうとする。だが、ルーファウスに呼び止められた。
「あ、ヴィンセント。良いモノをあげよう。ちょっと社長室まで来てくれるかな」
ルーファウスはそう言うと、エレベーターに乗るようヴィンセントを促す。
「はい、伺います」
2人は、最上階にある社長室へと向かった。
社長室に着くと、ルーファウスは「ちょっと待ってて」と言い置いて奥の部屋へと消える。すぐに戻って来た彼は、紙袋を手にしていた。
「これをあげよう。いや、正確にはあの子に」
「ありがとうございます。これはなんですか?」
「ふふふ。開けてごらん」
「………?」
ヴィンセントは何だろうかと思いながら、ガサリと音を立てて中身を取り出す。
「……これは?」
「見ての通りだ。……セフィに着せてやれば良い」
「……どういうことですか?」
「そういうプレイをしてみれば良いじゃないか」
「……私にはそういう趣味は無いのですが……」
「一度くらい試してみれば良いじゃないか」
「……では、遠慮なく頂きます」
中身は、ヴィンセントが驚くモノだった。黒地のフリフリとしたワンピースに、白いエプロンのようなものがセットでついている。ご丁寧に、黒い太ももまでのタイツに、ガーターベルトと、それから白の下着。いわゆるコスプレ用の「メイド服」なる物が紙袋に収められていた。
「この間宴会の余興で当たったんだがね。私には用の無い物だから、キミにあげる」
サイズも大きめだから大丈夫だろう。そう付け足した社長の目は面白そうに笑っている。なんて下世話なものなんだろう。ああ、でも受け取った上にあれに使おうとしている自分も十分下世話か。
ヴィンセントは内心ため息をつきながらも、紙袋を受け取り、礼を言って席を辞そうとした。
「あの子、元気にしてるの?」
ふと投げられた言葉。ヴィンセントはゆっくりとルーファウスを振り返り、真っ直ぐ目を見て丁寧に答えた。
「はい。元気にしています。状態に変化もありません」
そう、それなら良かった。ルーファウスは微笑んで安心したようだった。
「じゃ、あの子に宜しく。引き止めて悪かったね」
とんでもありません。お先に失礼致します。ヴィンセントはひらひらと手を振る社長に挨拶をすると、今度こそ退室した。
あの災厄からそれなりの年月が経ち、神羅カンパニーはそれまでとはまた違う在り方で企業活動を継続していた。一時は崩壊の道筋を辿ったかのように見えた巨大企業は、過去の数々の所業を反省し、今は犠牲の無い形での在り方を模索している。
それは、失われた命や大切な物を奪われた人々からすれば勝手極まりない言い分でしか無いが。それでも、今日も神羅カンパニーは存続し、ルーファウスも体の自由は無くしながらも健在だった。星は相変わらず廻り続け、天の裁きを下す事も無い。
ルーファウス曰く、セフィロスは『落ちていた』らしい。
ようやく各地の復興に目処が立ち、新しい時代の幕開けに人々が希望を持とうとしていた矢先、彼が三度降臨したという。なんだか気の流れが騒がしいと、バノーラのライフストリーム吹き出す洞窟に調査団を派遣したところ、かつての英雄が居たらしい。これは大変だ。また災厄を呼ばれては敵わない! 直ぐさまルーファウスが駆けつけたところ、彼の様子がおかしかったという。
戦闘の意思は感じられず、只、ルーファウスをじっと見つめて彼は言った。
『……クラウドは……?』
ルーファウスは彼を「処分」しようとして──────、止めた。
彼は、何の罪も無い人々を惨殺し、災厄を呼んだ加害者──────、そして実験の最大の被害者の一人だった。
『クラウドはここには居ない。────おいで、私と行こう。』
セフィロスはあどけない仕草でルーファウスに着いて来た。また子供の時と同じように、神羅に閉じ込められたのだが、彼は何も言わなかった。諾々とルーファウスに従う彼。ルーファウスは安心した。鎖に繋いでおけるのならば、そうそう暴れる事もできまい。最も、油断はできなかったが。
そうやってセフィロスを回収していくらも経たないうちに、どこからかその話を聞きつけたヴィンセントが、彼を引き取ると申し出た。ルーファウスは賛成した。タークスに復帰した彼に監視させておけば、神羅で監視するも同然。おまけにヴィンセントはかつてセフィロスを倒したことがある実力者だ。これ以上良い保護者は居ないだろう。
こうして、セフィロスはヴィンセントに引き取られた。ヴィンセントはというと、最初はルクレツィアと宝条を止められなかった罪滅ぼしのつもりで彼を手元に置いた。だがそれはいつしか変化していった。ルクレツィアそっくりの彼にかつての恋を重ねるようになり、そのうち彼自身に劣情を抱くようになり……今に至る。
「バター、バターと。……あった」
帰り道、食料品を扱う店に寄ったヴィンセントは言付かった物を購入すると、セフィロスの待つ自宅へと帰路を急いだ。
「……ただいまー」
セフィロスはあらかたの調理を終えた台所でその声を聞くと、タオルで手を拭い、玄関に現在の自分の保護者(兼恋人?)を迎えに行く。
「おかえり。……何か持って帰って来たのか?」
「ああ、これか。あとで見せてやる」
「見せてくれるのか?」
「ああ、これ、副社長からお前へのプレゼントだそうだ」
ふうん。セフィロスは何だろう? という顔をしてから、リビングへと戻って行く。それを追うヴィンセント。まさか自分が『プレゼント』を使ってセフィロスに不埒なマネをしようとしているだなんて、考えもつかないだろうと笑いを噛み殺しながら……。
やはり夕食は肉じゃがだった。
「セフィロス、お前料理上手くなったな」
「あんまりやることないからな。これは楽しい」
特に材料を切るのが。相変わらず剣士なのかとヴィンセントは笑った。セフィロスは最近じゃがいもがお気に入りらしく、よく料理に出てくる。次は煮物を作るんだ、と楽しそうに笑った。
「さて、セフィロス」
食事を終えて寛いでいる時、ヴィンセントはおもむろに言った。
「さっきのプレゼントを見せる前に、俺からもお前にプレゼントがあるんだ」
ヴィンセントはそう言うと、棒状のチョコレート菓子を取り出して、何だろうかとこちらを見ているセフィロスに見せた。
「これ、何か知ってるか?」
ううん、知らない。セフィロスは菓子のパッケージを見ながら答える。
「これはポッキーという菓子だ」
ヴィンセントはパッケージを開け、袋を一つ開封すると棒状の菓子を1本取り出してセフィロスに咥えさせた。つぶつぶいちごポッキー、ハート形プレッツェル。うまい、と菓子を食べるセフィロス。
ヴィンセントはほくそ笑む。菓子はバターと一緒に購入してきた。店でこれを見つけた時に、なんとも不埒な計画を思いついた。あの、貰ったフリフリを役立たせる画期的な計画を。
ヴィンセントも1本食べて、セフィロスにももう1本与える。そして言った。
「セフィ、これを使ったゲームをしよう」
「ゲーム?」
セフィロスは尋ねる。
「ああ、酒の席の余興なんかでよくやるヤツなんだがな……」
1本のポッキーを両端で2人で咥えて、食べ進むゲームだ。先に口を離したり、ポッキーを折った方が負けだ。
「ふうん、そんなものがあるのか」
「ああ。じゃあ、行くぞ。そっち咥えて」
ヴィンセントはポッキーを咥えると、反対側の先端をセフィロスに咥えさせる。銀髪の天使は、そのまま食べ進めたらどうなるか、なんて思いつかない。ヴィンセントが菓子をかじり始めると、セフィロスも同じように齧り始めた。
1本目では勝負がつかなかった。2人の唇が合わさった時に初めてセフィロスは事の次第を把握して赤面したが、だからと言って負けはしなかった。2本目。今度はヴィンセントは悪戯を仕掛けた。
「……んっ……あ!」
セフィロスがびくりと震えて、とっさに顔を背けてしまう。彼はポッキーから口を離してしまった。
「セフィ、お前の負けだ」
「ずるいぞヴィン……!」
「ルール違反はしていない」
「……」
ヴィンセントはポッキーゲームの途中、セフィロスの乳首をキュッと抓ってやったのだった。当然セフィロスはムッとして唇を尖らす。アヒル口でそんな事するな、妙にそそるぞ。ヴィンセントはそう囁くと、続いてセフィロスに告げる。そっと抱きしめて、後頭部を支えてやりながら。
「セフィ、負けたら罰ゲームがあるんだぞ……」
「罰……?」
罰ゲームの意味が分からないらしい。ヴィンセントは苦笑すると、その意味を教えてやる。そして、彼に紙袋の中身を渡す。
「セフィ。これがルーファウスからのプレゼントだ。罰ゲームは、これを着てセックスする事」
手渡されたものを見たセフィロスは、そのコスチュームの正体を見抜くと真っ赤になって抵抗する。嫌だ! こんなの着ないからな!
「じゃあ、もっと恥ずかしい事してもらおうか?」
ヴィンセントは流し目でセフィロスを見て揶揄ってやる。セフィロスはもう真っ赤っ赤。涙ぐんでしまった魔晄の瞳できっと睨むと一言。
「変態!!!」
ヴィンセントは吹き出した。
「セフィ、着替えたか?」
ヴィンセントは、しぶしぶメイド服を持って脱衣所に篭ったセフィロスを追ってその扉の前の壁に凭れて立ちながら声を掛ける。経過した時間を考えると、おそらく上手く着られないか、出てくるのを躊躇しているか。
「入るぞ」
そう踏んだヴィンセントは、短く断るとそっとドアを開けた。
そこには、案の定中途半端な状態のセフィロスが困ったような顔をして立っていた。
「どうした……?」
ヴィンセントは優しく訊いてやる。
「……これ、やり方が分からない」
そう言っておずおずと差し出してきたのはガーターベルトだった。セフィロスは俯いて真っ赤になっている。
「ああ、留めてやる」
後ろのチャックもだな。ヴィンセントはワンピースの後ろのチャックを上げてホックを止め、エプロンも結んでやる。
そして、ガーターを留めてやろうとスカートを捲り上げ……、はたと思いつく。
「セフィ、入っていたのはこれだけか?」
セフィロスはぶんぶんと頷くが、何か隠しているようだった。
「……セフィ?」
瞳を覗き込んで再度訊いてやれば、とうとう観念したように、彼はついと床を指差す。そこには……、サイドを紐で結ぶ形の、女性用の下着があった。
「やはりな。セフィ、これも履き替えて」
「な! い、嫌! それだけは嫌だ……!」
セフィロスはぶんぶんと頭を振って泣きそうな目で訴える。
「セフィ、でもなぁ。このままでも非常に倒錯的なんだが……?」
セフィロスはハッとする。自分が今履いているのは、ボクサーショーツ。それにあのレースの紐みたいなのでタイツを留めたら……。
セフィロスはくるりと後ろを向くと、見るな、と一言言い置いてから、とうとう下着も履きかえた。もう、彼のプライドはズタボロだった。
ガーターはヴィンセントが留めてやった。スカートを捲り、他人にこんなものを装着されるなんて、セフィロスは死んでしまうのではないかと思う程恥ずかしかった。だが、セフィロスはヴィンセントには逆らえない。いつだってあれよあれよと言う間に良い様にされてしまう。まな板の鯉。まさにセフィロスはその状況だった。
「セフィ……、ベッドに上がりなさい」
ヴィンセントの前で、自分からベッドに上がらされる。彼はまだ来ない。なんとも居た堪れなかった。
やがて、ギシリとベッドに上がってきたヴィンセントを見れば、優しい目で慈しむように自分を見ていた。どきりとして目を奪われる。その次の瞬間、今度は唇も奪われた。
「ふ……ん……」
ちゅ、ちゅ、と音を立て深いキスを交わしながら、セフィロスはそっと押し倒される。のし掛かられ、身動きを封じられた状態で、さらに激しくなる口付け。
「ちゅ……んっふ、あむ……」
解放された時には息が上がっていた。潤んだ瞳でヴィンセントを見つめるセフィロス。碧の燐光が煌めいて、宝石のように美しかった。
「セフィ……、可愛いな」
ヴィンセントはゆっくりとスカートの中に手を入れ、足を開かせながら内腿をすりすりと撫でる。セフィロスの体は、これから与えられるであろう快楽に期待してふるりと震えた。
ヴィンセントは、そのまま手を奥に入れ、スカートの中でセフィロス自身を下着の上から優しく刺激してやる。とたんに漏れる甘い吐息。顔を横に背け、悔しそうな顔をしながらも快楽に息が乱れている。
「セフィ……。お前にも見せてやろうか? すごくエロい」
「や……! やめろ、変態……!」
「ふふふ。その変態に弄られてイヤラシイことになっているのは誰だろうな?」
「っ!」
セフィロスは目をぎゅっとつぶって羞恥に耐える。下着の中では自身が徐々に頭をもたげ、透明な蜜を流し始めていた。フリルのついた可憐な下着から覗く、勃起した男性器。この上なく倒錯的な光景だった。
しばらくすると、にちゃ、にちゃと言うイヤラシイ音が聞こえ始める。セフィロスは咄嗟に耳を塞ごうとするが、ヴィンセントの左腕に阻まれる。そのまま両手を頭上でひとまとめにして押さえつけられる。
「セフィ……。ほら、気持ち良いだろう?」
下着の中に手を入れられ、直に愛撫をされだすと、だんだんとセフィロスは何も考えられなくなっていった。既に抵抗する気力もなく、ただ快楽に流されて、ヴィンセントに身を委ねる。
「んぁ……ぁぅん……ヴィン、あ、ヴィン……きもちい……」
涙を流しながら素直に訴えるセフィロスはたまらなく可愛いかった。ヴィンセントは段々と自分も我慢できなくなりだして、今度は彼の後孔を攻略するべく、下着の両サイドの紐を解いた。
セフィロスの足をしっかりと開かせると、ヴィンセントはラブジェルをたっぷりと纏った中指で蕾を解してから、そっと後孔に挿入する。くぷ、と音を立てて、指は暖かい体内に呑み込まれていく。
「く……っん………ふぁ……ひっ……」
セフィロスの閉じられた瞼からキラキラと涙が溢れる。それを唇でそっと吸い上げてやり、こめかみにキスして、ヴィンセントは指を蠢かす。
「セフィロス、我慢しろよ……。すぐに悦くしてやる」
「あ、あん……」
セフィロスはヴィンセントを見ると小さく頷き、体内への刺激にまた目を閉じて息をつめる。息をしろ、と宥めながら、ヴィンセントは受け入れさせる準備に集中した。
「うぅっ……っく! ひっ……!」
ゆっくりと中指を出し入れしていると、段々と中が解れてくる。動かしやすくなった指をくっと曲げて彼のイイ所を刺激してやると、とたんに彼の背が反って中がきゅうっと指を締め付ける。こうなれば、綻び出すのは速い。セフィロスの気持ちがイイ所ばかりを刺激してやり、あんあんと喘がせながら、ヴィンセントは2本、3本と呑みこませる指を増やす。中で3本の指をバラバラに動かせる頃になると、セフィロスは余りの快楽に息も絶え絶えになっていた。
「あん! あ……あ……ヴィ、ヴィン……イ、きそっ──────ッ!!」
くんっとセフィロスの背が反り返る。そのままビクビクと絶頂を極めようとした体を押し留めるべく、ヴィンセントは空いている方の手でセフィロスの根元を抑えてやった。
「ひぃっ!? あああっ! ……っくぅ……」
迸りかけた奔流が逆流し、衝撃と不快感にセフィロスは呻く。なんで、どうしてイかせてくれないのだろうか……?
「ヴィン……あっ……ど、して……」
目に涙を一杯に溜めて、セフィロスは自分を組み敷く男に縋るような目を向ける。凶悪なまでの色っぽさにヴィンセントはすぐさま押し入りたい衝動が湧き上がったが、ぐっとこらえた。
「セフィ……、イくのは私を咥えてからだ」
そう言うと、セフィロスのガーターと下着を外し、スカートをバサリと捲り上げる。足を大きく開かせて抑えると、後孔はひくひくと収縮していた。
「あ……あ、や……見るな……」
セフィロスは羞恥に顔を両手で覆って隠す。ヴィンセントはしっかりと腰を抱え、慎重に自らの雄蕊を挿入した。
「っふ! …んん……くぅ……」
セフィロスは目を閉じて眉根を寄せながら、圧迫感に耐える。力を抜こうと深い呼吸を繰り返すその姿はひどくいじらしく見えた。そのまま根元までゆっくりと呑みこませると、馴染むまでは腰を動かさず、乳首や性器を愛撫して快感を引き出してやる。程なくして、セフィロスの吐息に再び甘さが混じり出すと、ヴィンセントはもう容赦しなかった。
「ああぅ! あん……ひぁっ!」
じゅぷ、じゅぷと卑猥な音を立てながらセフィロスは攻められていた。互いに一糸纏わぬ姿で絡み合う。既に長い時間抱かれ続け、後孔は砲身に甘えるように絡みつく。
「はぁっ! ……あ……あ…」
強弱をつけながら前立腺を擦りあげられ、セフィロスは泣き喘いだ。ゆさゆさと揺すぶられ、時折入り口あたりに最も太い部分を引っ掛けて刺激される。じわじわと抜き取られ、中が欲しがってきゅうっと閉まるタイミングで奥まで突き入れられる。
「や…あん!……も、むり、むりぃ……あむ…んん!んぅ……」
首をふって涙を散らすと、指を2本口に入れられた。そのまま舌をやわやわと刺激され、セフィロスは指に舌を絡める。乳児のようにちゅうちゅうと指を吸いながら、下の口はヴィンセント自身を呑みこまされている。ねっとりと蕾の中をこすられ、セフィロス自身は透明な粘液を零す。
「あう……ヴィン、また…あっ!また、いく……」
ふるりと身を震わせると、ビクビクと背を反らせて息を詰めながら、もう何度目かわからない吐精をする。喘ぎ疲れた声は少し擦れていた。うねり蠕動する内部に愛撫され、ヴィンセントも数回目の限界を迎えた。
「はっ、セフィ……っ!私も、限界、だっ!」
最奥まで怒張をねじ込み、そのまま精を吐き出す。強烈な快感がヴィンセントの体を突き抜けた。
「っく!」
息を詰めて最後の一滴まで注ぎ込むと、はあ、はあ、と荒い息をつきながら、セフィロスの中から柔らかくなった自身を抜き取る。
「んんん……あぅ……」
その感覚にも感じるらしく啼き声が上がる。しっかりと恋人を胸に抱くとヴィンセントはベッドに横になった。
「……セフィ……」
優しく名を呼び、キスをする。唇を舐めてやると、うっとりと目を閉じている彼は素直に少し口を開き、舌を差し入れてやればおとなしく舐めて応えてくる。ちゅく、ちゅくと音を立てながら口腔内をしばらく貪り、そっと放してやる。
ヴィンセントはセフィロスと一緒にシャワーを浴びようと思ったが、抱かれ疲れた彼はぐったりとし、すぐにでも寝入りそうだった。それを見て、クスリと笑うと、手早く彼の後始末をしてやってから、そっと背をさすって寝かしつける。
しばらくそうしていると、やがて聞こえてくる寝息。すやすやと安心して眠るその顔を見てから、所有印だらけになった体にそっと上掛けをかけてやって、ヴィンセントはシャワーを浴びに行った。
翌朝。ヴィンセントが目覚めると、既に傍は物抜けの殻。これは怒らせたかな、どうやって宥めようか、とヴィンセントが少し面白がりながら居間に向かうと、そこにはフリフリのエプロンをつけて朝食の準備をするセフィロスが居た。
「セフィロス……」
これには驚いたヴィンセントは、呆気にとられた間抜け面を晒してしまった。
「おはようヴィンセント」
セフィロスはにっこりと笑ってヴィンセントに言う。その姿からするに怒ってはいないようだ。一体どうしたのかと尋ねると、セフィロスはしれっと答えた。
「お前はこういうのが好きなんだろう? だから着てやることにした」
ニヤニヤと面白そうにヴィンセントを見ている。
────参った。降参だ。ヴィンセントは笑った。
これは、いつもこうして予想だにしないかわいい事をして、こちらを骨抜きにする。ああ、これだからもう二度と手放せない、と事あるごとに感じさせる。
今日も天気が良い。さて、そろそろ出発する時間だな。ヴィンセントはセフィロスのこめかみにちゅ、と口づけをおとし玄関へと向かう。
「ヴィンセント、忘れ物だ」
玄関にスリッパのパタパタという音を響かせながらセフィロスがやって来た。何やら手渡される。
「持っていけ」
小さな手提げの中には弁当が入っていた。
「ふふふ、せいぜい照れていろ」
はははと笑うセフィロスに今度はやや濃厚なキスをしてやって、ヴィンセントは家を出る。斜め前からの日差しが眩しい。
セフィロスは、紆余曲折の果て今日もヴィンセントの家で平和に過ごしている。決して一人では外出せず、行動は全て把握され、永遠に神羅という籠の鳥。それでも今は幸せだった。ずっとずっと、ヴィンセントと幸せに過ごすのだろう。
その夜、ヴィンセントは今度は別のものをプレゼントした。それは、なんちゃってなおもちゃのそれではなく、実用性を考えた白のフリフリエプロンだった。セフィロスは、最近ではそれを愛用しているとか────。
Fin
20150902