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いたずら

 

 それは平日の朝の事。

 いつものように、自分の部屋でセフィロスは目覚めた。ベッドに両手をついてゆっくりと体を起こし、寝乱れた前髪を耳にかける。そっとベッドから足を下ろしてスリッパを履き、窓際に寄るとカーテンを開く。早朝の澄んだ空気を切り裂くかのような朝日に目を眇める。

 同居人は既に起きた後のようだ。パタパタとスリッパの音を立てながら洗面所へと向かう。片手をパジャマの裾に入れて腹の辺りをぽりぽりと掻いた。

 今日の予定は、えーっと、そうだ。午後から会議が2つある。それ以外は1日デスクワークの日だ。冷たい水で顔を洗い、口を濯ぐ。タップを捻って水を止める。キュッと音がした。傍にかけてあるタオルで顔を拭き、すぐにリビングへと向かう。きっとクラウドが朝食を準備してくれているだろう。

「セフィロスおはよう」

「おはよう」

「パン2枚で良い?」

「ああ」

 思った通り、朝食が準備されている。いつも通りの朝。

 席に着いて朝刊を広げる。コーヒーを一口啜った。政治のニュース、経済のニュース、天気のニュース。神羅のニュース。相も変わらず今日も世の中は回っている。チン!という音がキッチンに響いた。トーストが焼けた。

「いただきます!」

 目玉焼き、ベーコン、サラダ。いつもの朝食のメニュー。フルーツは日によって変わる。今日はイチジク。

「ほう、イチジクか」

「うん、もう秋だからね」

 巡る季節と変わらない日常。おれの横にはクラウド。とても良い。平和な日常。実際は平和な世界なんかじゃないけれど、この部屋の中だけは、平和な空間。食べ終わると、セフィロスが食器を洗う。その間にクラウドは歯を磨いて、着替えて、出社の準備をする。セフィロスも少し遅れて出社の準備を始める。ヒゲは剃らない。生えてこないから。

 多分、自分は人と違う。そんな事はとっくに分かっていた。でも、それがなんだ。普通ってなんだ。すっかりと身支度を終えて、クラウドと共に家を出る。

「じゃ、行ってきますのキス」

 両方行く側だけれど、欠かさず口づけを与えられる。首をかがめて唇を差し出した。優しい口づけの後、2人は家を出た。

 

 「セフィロスおはよ……!?」

 元気な元気な仔犬のザックス。今日はなんだか挨拶が尻切れとんぼだ。どうかしたんだろうか。

「おはよう……どうかしたのか?」

 ザックスは、ああ、うーん、うん、とか歯切れが悪い。おれは首を傾げてしまう。途端に、ザックスの顔が赤くなった。

「いや……その、セフィロス。今日はいつもと髪型が違うんだな。」

 ……は?何の事だ?意味が分からない。

「いや、特に何かした覚えはないが・・・?」

 答えながら、何気なく髪を触った手が止まった。おかしい。何かが違う。恐る恐る手を首の後ろにやって、自分の髪を前に持ってくる。……なんだこれは。

 おれの髪は綺麗に編まれて先をリボンで束ねられていた。犯人なんて1人しか居ない。クラウド。やられた。いたずらされたらしい。はぁー、と盛大にため息をつく。

「ああ、クラウドにやられたのね。いいじゃん、似合ってる」

 ザックスがニヤニヤ笑いながらおれの三つ編みを弄ぶ。

「きっと今日の社内はこの話で持ち切りだぜ」

「なぜ?」

「なぜって、そりゃあ珍しいからだよ。すれ違う人みんなが振り返っただろ?」

「いや? そんな事はないが」

「それ、セフィロスが気づいてないだけだぜ?」

「そうなのか?」

「そうだよ。今まで気がつかなかったのか? 相変わらず、自分の事には無頓着だよな」

 おれは自分のデスクに着く。ザックスも横のデスクについた。

「それ、そのままにしておくのか?」

「ああ、デスクワークに丁度良い」

「ははは! あ、写メらせて」

 ザックスがこちらにスマホを向けて撮影をする。カシャ、という音。何がそんなに面白いのか全然理解できないが、まあ本人が撮りたいんだから好きにすれば良い。

「本当によく似合ってる。美人だぜ?」

 ……それは褒め言葉なのだろうか。

 

 後日、おれはザックスにあの写真を撮らせた事を後悔した。写真は社内のみならず、ミッドガル中に流出していた。

「ザックス……お前ばら撒いたな……」

「いや、そんなつもりなかったんだけどさぁ」

 ……まあ良いか。さ、今日もクラウドと家に帰ろう。おれとクラウドの平和なあの家へ。

FIn

20150925

​FFオンリーで配ったペーパーでした

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