隠し事
あるよく晴れた昼下がりのこと。
セフィロスは神羅カンパニー本社ビルの廊下を、いつも通りのポーカーフェイス(単なる無表情とも言う)で会議室へと向かっていた。
あら英雄だわ。
あ、セフィロス……。
すれ違う人々が囁き合うが、彼の耳には入っていない。黒いコートを翻し、銀の髪を靡かせながら、これから始まる会議の内容について思案しながら悠然と歩く。
そこへ、セフィロスを呼び止める声が響いた。
「セフィロス! 丁度良かった。すまないが、これを子犬に渡してくれ」
呼び止めたのはジェネシスだった。小さめの紙袋を手渡される。更にビニール袋に入った状態の中身は見えないが、とても軽いから本ではなさそうだ。
「俺はこれから任務であれに直接渡す時間がない。頼んだぞ、セフィロス」
そう言ってジェネシスは足早に去っていく。その顔がニヤニヤを笑っていることを、セフィロスは知る由も無かった。
その日の仕事もつつがなく終わった。
セフィロスとザックスは同居(ザックスは同棲と言って憚らない)しているアパートに帰り、夕食後のまったりとした時間を楽しんでいた。
そこでふと、セフィロスは昼間のことを思い出した。
「そうだザックス。今日ジェネシスからお前に預かり物をしている」
セフィロスはそう言い置いて、先ほどの紙袋を手に戻ってくる。
「ああ、サンキュー!」
ザックスは陽気に答え、何とはなしに紙袋の中身をビニール袋越しに見て、ハッとして元に戻した。
「……どうした? 開けないのか?」
「あ、ああ! これ、大事なものだから後で確認することにする」
ふうん、と答えてセフィロスはコーヒーのお替わりを淹れにキッチンへ行く。そんなセフィロスの後ろ姿を見ながら、ザックスは誤魔化しきれたことにホッとした。
この中身は、いわゆる夜のオカズと言われる物だった。先日、ザックスがジェネシスと話していた際、貸してやる、と言われていた物だ。その時の会話をザックスは思い出す。
『ザックス、最近お前たちの関係は良好か?』
『もちろん! めっちゃラブラブってやつ?』
『ふうん、それは良かったな』
『あ、でも夜の方では、もっと色々やりたいけど』
『ははは! なるほどな。……そうだ! 良い物があるぞザックス! 今度貸してやる』
『良い物って?』
『AV。プレイの参考にしろ』
『ええ! いいよあいつ怒るって。』
『なんだ、お前そういうの見ないのか?』
『そりゃ……、見るけど……』
幾つかは実際にも試してみたけど……。
『じゃあ良いだろ。楽しみにしておけ』
『分かったよ。ありがと!』
そんな会話をした後に受け取ったのがこの紙袋。セフィロスには絶対に隠さないといけない。だって万が一見られたら、あいつは白い目で俺を見たあと、きっと数日は触らせてくれなくなる。
ザックスは早々に自室に紙袋を隠しに行き、何事も無かったかのようにセフィロスとの時間を過ごした。
昨日、ザックスの様子がおかしかった。
セフィロスは書類を読む目線をふと上げて、傍に置いたマグカップに手を伸ばす。
昨日のザックスはなんだかソワソワとしていた。一見いつも通りなのだが、おれには分かる。そう、あれは何か隠し事をしている時の仕草だ。
なんだろう、何を隠しているんだろう。おれには言えないことなのか……。
ちょっと寂しく感じたところで、はたと気がつく。そうだ、昨日渡した紙袋だ。あの後からあいつはおかしいんだ……。
よし、とセフィロスは決めた。
あの中身がなんなのか突き止めてみよう。もしも本当に重要そうな物だったら、見ないで元に戻せば良いだけ……。
本当はとても罪悪感を感じるのだが、ぞれ以上にセフィロスは、ザックスの隠し事に興味があった。
仕事が終わって帰宅すると、ザックスはまだ戻っていなかった。
これはチャンスだとばかりに、セフィロスはザックスの部屋のドアをそおっと開いた。だが、足を踏み入れる前にためらった。
こんな、こんな人のプライバシーに踏み込んで良いものか。もしも本当にすごく重要なものだったりしたらどうしよう。おれはザックスを信用していないんだろうか……。
ぐるぐると迷ったが、ザックスにははぐらかされたし、とにかく確かめない限りは何もできないと、セフィロスは迷いを振り切るように少し上を向いてから、深呼吸をして部屋に入った。
部屋の中は散らかってはいないものの、生活感がある。キョロキョロと見回すが紙袋は見当たらない。きっと中身を出して片付けたんだろうな。セフィロスはそう考え、ザックスの秘密の物の捜索を開始した。といっても、探す場所なんて限られている。クローゼットの中、引き出しの中、ベッドの下……。
思いついた場所を、内心ビクビクしながら探してみたが見つからない。セフィロスの中に、だんだんと罪悪感が舞い戻る。
おれは何をしているんだろうな。
ザックスはきっと言いたくないからおれをはぐらかしたんだ。それなのに、勝手に部屋に入って、あまつさえあいつの引き出しなんかを勝手に開けて……。
セフィロスはなんだか切なくなった。
おれは、ちょっと不安になったんだザックス。いつも、おれを最優先して、払っても払ってもしつこくまとわりついてくるお前が、おれに隠すことがあるんだと。それはおれには言えないような、おれ以外の人間に関することなんじゃないかと。もしかするとその人は、おれよりも深くお前の心に食い込んでいるんじゃないかと……。
セフィロスはぽすっ、と、ザックスのベッドに倒れこみ、そのまま枕に顔を押し当てる。普段は一緒に主寝室にしている部屋で寝ている(眠るだけではないが)から、あまり使われることのないシングルのベッド。すん、と息を吸い込むと少し埃臭い気がした。洗濯でもしてやるか、とセフィロスは起き上がり、枕カバーと上掛けを剥いで持って行こうとする。その時、足元でガサリ、という音と何かが落ちる音がした。
「……?」
セフィロスは音の正体を見つけようと、上掛けの中を探る。再びガサリという音を立てて、手が何か硬いものに当たる。紙袋からは出されていたが、ビニールの袋はそのままだったのですぐにそれが探していた物だと分かった。少し緊張しながら、袋の中身を出してみる。すると……、
「…………!? っな!!」
セフィロスはそれを認めた瞬間、一気に首まで真っ赤になった。あられもないポーズで写真に収まる美女。モザイクだらけのパッケージ。これは……。
アダルトビデオ、というやつではないか?なんでこれがここに……!?
哀れなザックスの隠蔽工作はこうして失敗に終わった。セフィロスはどぎまぎとしつつも、手に持ったそれを眺めてみる。ザックス、これか?これがお前にとっての大切なものか?おれを不安にさせてまで隠そうとしたのはこれなのか!
コレだからこそ隠そうとザックスは奮闘したのだろうが、セフィロスの思考は混乱気味で、軌道を逸れていっている。
セフィロスは、何を隠そうこんなものの実物を見たのは初めてだった。コレの正体が分かったのも、ジェネシスから話に聞いていたからに過ぎなかった。成人男性であれば別にそうおろおろとする必要もないということを彼は知らない。
彼はとにかく性的なものには淡白で、興味自体が全くなかった(ザックスとの情事は別)。ザックスに教えられるまでは完全に無垢だったため、女性の裸体なんて実物を見たこともない。
「こ、れは元に戻したほうが良いな……」
まるで自分に言い聞かせるかのように一人ごちて、ビニールに袋に再び戻そうとする、が……、そこでいたずら心が起きた。
────コレの中身を見てやろう。
ザックスがどんな行為に興味があるにかが知りたいと思った。セフィロスはいそいそとザックスの機密事項──もといAVを持って自室へ行き、パソコンを立ち上げディスクを挿入した。
最初は、なんともない行為だと思った。女性の裸体を男性が寄ってたかって嬲っている。セフィロスはその映像を何の感慨もなくぼーっと眺める。だんだんと激しくなる行為。コレのどこが良いのだろう、だなんておそよ他人からしたらその淡白さに呆れるような感想を抱きながら、そろそろ飽きてきた頃だった。
「いや! だめぇぇっ!」
ひときわ高い声を放った女優にびくっとなった瞬間、セフィロスは固まった。映像の中では、この間セフィロスがザックスに強要された行為が繰り広げられていた。
それは、およそ口にはできないような言葉でねだることを強要されるものだった。
「な、な……っ」
セフィロスは一瞬にして首まで真っ赤になり、映像を止めた。慌ててディスクを取り出してケースにしまい、ビニール袋にもしまって元あった場所へと戻しに行く。ドタドタと自室に戻ってきた時、彼は下半身に違和感があることに気づいた。
「──────ッ!」
あろうことか、彼の股間は見事にテントを張っていた。
エッチな映像を見てもなんとも思わなかったのに、彼はザックスとの行為を思い出した事で体の熱を上げる事になった。あまりに居た堪れず涙目になりながら、泣く泣く処理をするべく、トイレへと駆け込んだ。
なんとか体の熱を収めて、ため息をつきながらトイレから出てきたところへ、ガチャリと鍵が開く音。
ザックスが帰宅したのだ。セフィロスにとってそれは間が悪いのか、はたまたギリギリ間に合ったと言うべきか。
「ただいまーっ、と。あれ、セフィロス? どうしたんだ、なんか顔赤いぜ?」
「……! べ、べつに何もない!おかえり、ザックス」
セフィロスは必死に平静を装いながら、ザックスを迎える。しかし、ただいまのキスをされたのを、咄嗟に避けてしまった。
「……セフィロス? 何かあったのか?」
「な、なんでもないと言っている!」
訝しむザックスの目を見る事が出来ず、セフィロスはそう言い残すと自室へと逃げるように篭ってしまった。
あんな事をした後にザックスの顔を見る事がセフィロスには酷く居た堪れなかった。勝手にザックスの部屋を家探しした挙句、見つけたAVを見て自慰行為に耽ったなどと、絶対に悟られるわけにはいかない。そんな事知られたら恥ずかしくて死んでしまう! この事はなんとしてもザックスには隠さないといけない。セフィロスは固く誓った。
────あいつ、あれは隠し事をしているな。
その場に取り残されたザックスは怪しんでいた。先ほどのセフィロスの誤魔化し方は明らかに不自然だった。もともと、セフィロスは嘘や誤魔化しが苦手だ。だいたい焦って逃げるか、図星を衝かれて黙ってしまうか……。
ははーん、さては知られたら恥ずかしい事なんだろうな。そんな事、ザックスは知りたいに決まっている。
彼の口をなんとしても割らせたい。さて、どうしたものか……。
ザックスは楽しそうだった。彼が考えている「口を割らせる方法」というものは、当然そっち方面の手段によるものだった。今度はザックスがセフィロスの秘密を突き止める番だった。
ザックスは、「そういう時になるまで」、この話題については黙っていた。セフィロスに誤魔化されたふりをして油断させ、ベッドの中でじっくりと聞き出すつもりだ。
聞こえていたシャワーの音が止み、程なくして頭にタオルを被り、毛先から雫を滴らせながらバスローブを着たセフロスが寝室へと入ってきた。
「ザックス、お先だったな」
「おう、じゃあ入ってくる。寝ずに待ってろよ」
そう念押しして、セフィロスの赤くなった顔を見ながら浴室へと向かった。さあ、今日はどんな事してやろうかな。セフィロスが知ったら逃げ出すであろう事を考えながら。
「で、セフィロス? お前は何を隠してるんだ?」
「!?」
ギシリ、とベッドが2人分の体重を受けて軋む。ザックスはセフィロスに覆いかぶさると、そのまま仰向けに押し倒し、顔の横に左右の腕を縫い止める。
「誤魔化せたと思ったんだろ? でもセフィ、お前は嘘つくの相当下手だせ」
ほら、言ってごらん? と優しく囁いてやりながら、唇で首筋をくすぐってやる。ん、とかすかな声を漏らし、顔をそらすセフィロス。
「……大した事じゃない」
ふうん、とザックス。なるほど、かなり意地を張っているな。
「ま、セフィが言いたくないなら、それでもいいけどね」
納得したふりをして、ザックスはセフィロスへの愛撫を始めた。そっとキスを繰り返しながら、胸をさわさわと撫でてやる。彼が抵抗しない事を確認すると、乳首を捏ね、ヘソを舐め、さらに下へと舌を滑らせる。
「は……っあ! ……ザックス、そこはダメだ……」
ひくひくと震えるセフィロスのアソコ。
「なんで? 好きだろう?」
ザックスはニヤリと笑うと、セフィロスのものをすっぽりと咥えて口での愛撫を始める。セフィロスは喘ぎながら、ザックスの頭を離させようと押し返し、足をもじもじとすり合わせた。
ザックスは頃合いを見て、セフィロスの後孔を解しにかかる。たっぷりとローションをまとった指で蕾を撫でてやる。
「セフィ、リラックスして。いつも通りだ、気持ちよくしてやるぜ」
「んぁ……ふ、くぅん」
まつげバサバサの目を閉じて、鼻に抜けるような嬌声を漏らしながらセフィロスはザックスにすがる。徐々に口を開こうとする蕾に、ザックスは中指をツプリと挿入した。
「くぁ……ぁ……は……」
眉間にしわを寄せながら、セフィロスは指の動きに耐える。最初は異物感が激しく、なかなか快感には結びつかない。
「セフィ、ちょっと我慢しててな。すぐに良いとこ触ってやるから……」
傷つけないように慎重に入り口を解していると、徐々に秘孔がとろけてくるのが分かる。指を2本に増やして中をこすってやると、セフィロスの口からは先ほどまでとは違う艶めいた吐息が溢れた。
「ザックス……あ、んん」
美しいセフィロス。銀糸の髪も、翡翠の瞳も、まるで精巧な作り物のように冷たく輝く。色づいた頬の柔らかさと温かさだけが、彼が間違いなく生きている人間であることを教えてくる。もっと、もっと生ナマしい、動物的な面が見たい。ザックスはセフィロスの全てが知りたいし、彼にとって唯一全てをさらけ出せる存在でありたいと思う。
「ザックス、んん、好き……あ、好きだ……」
セフィロスが恍惚とした表情でうわ言のように繰り返す。
「あーもう! 可愛いなぁ! 俺だって好きだぜ。むしろ愛してるよ……」
潤んだ碧の瞳を見つめながら、さらに1本挿入する指を増やす。中でバラバラに動かし、コリコリとした前立腺をしつこく揉み込むように弄ってやる。
「は! ……あっく! や、ザック……んん」
セフィロスはそろそろ切羽詰まってきたようだ。自身の先端からは透明な雫が溢れている。ザックスは指を抜き、セフィロスの腰を抱えた。
「セフィ、ゆっくり息吐いて、力抜いててな……」
ザックスは熱くとろける蜜壺へ、自身の怒張をねじ込んだ。
は、は、という息づかいと、結合部から溢れる水音が寝室を満たす。
ザックスはゆるゆるとセフィロスを穿ち、なかなか解放へ向かおうとしない。
「で、セフィ……。さっき、いったい何を隠してたの……?」
「……?」
快楽の波をたゆたっているセフィロスは一瞬、何を言われたのか分からなかった。
そして言葉を理解して、まさかこんなところで蒸し返されると思っていなかったために戸惑う。この話は終わったんじゃなかったか?
「……大したことじゃないんだ。本当に、気にするな……」
なぜそこまで知りたがるんだろう? セフィロスは少し疑問に感じた。するとザックスがニヤリと笑った。
「って言われると、余計気になるんだよな。……よーし、体に訊くしかないな」
「なっ!? 何?」
「お前が隠し事なんて珍しいからな、何か面白いことだろ? 聞き出し甲斐があるぜ!」
しまった、とセフィロスは思った。適当な事を教えて、隠し事をしているだなんて悟らせないようにするべきだった。
「は、離せ……」
セフィロスはザックスの下でもがくが、ザックスが逃す訳がない。
「だーめ。恋人に隠し事は良くないぜ」
「お、お前だって隠し事してたじゃないか!」
「うん? 俺が? 何かあったっけ?」
「とぼけたって無駄だぞ! 昨日お前の部屋で……っ!」
「へぇ? お前俺の部屋に入ったんだ? で、何があった?」
ザックスはニヤニヤするのを止められなかった。ここに来て、セフィロスが何を隠しているのかが何となく見えてきた。おそらく見つけたんだろう、アレを。本当は隠しておきたかったが、バレてしまったものはしょうがない。ザックスはどこまでも前向きな男だった。
「何がって、その……」
対照的にセフィロスは自分が完全にザックスのペースに乗せられていることを悟り内心臍を噛む。自分は嘘もごまかしも上手くない。今夜はもう彼にいいようにされるんだろうな、と諦めのため息をついた。
「猥褻なDVDを見つけたぞ。何が大事なものだ、嘘つきめ」
「あ~、アレね……。ごめんね、でも男にとっちゃ大事なもんだろ?」
「どこが……。てっきりおれは、お前がおれに言えないことを隠していると思って……」
「例えば?」
「例えば……、その……、」
「うん? ……言いたくないの?」
セフィロスはふいと首を背けて黙った。
「そっか……、まあ、言いたくないならそれでもいいぜ。でも、俺の質問に答えるまではイかせてやんない」
「な……っ! 卑怯だぞ……!! や、やめろっ!」
ザックスはセフィロスが普段使っている髪ゴムをベッドヘッドから取り上げ、彼の根元を戒めた。外そうと伸ばされた彼の両腕をベッドに縫いとめる形で押さえつける。
「痛……っ、やめろ、嫌だザックス……!」
「取ってほしかったら質問に答えろよ。俺が何を隠してたと思ったんだ?」
言うや否や、ザックスは律動を再開した。ぐりぐりと彼の弱いところを重点的に攻めてやる。
「ひっあ! ああっ! やだぁ……っ!」
セフィロスはたまったものじゃない。急所の根元にゴムが食い込んで痛いし、後ろからの快楽を味わわされても放出できない。屈服するのは早かった。
「お、前に、おれより気にかかる人、が、できたのか……っと……、おも!」
ぐちゅぐちゅと後孔を穿たれながらの答えはたどたどしいものとなる。はん、ひぁっ、と喘ぎ混じりにセフィロスは必死に答える。
「え、それってやきもち妬いたの……?」
ザックスはこの答えには正直驚いた。まさか、こんなことで彼がやきもちを妬いてくれるなんて思いもしなかった。
「やきも、ち……? おれは、ちょっと不安に、なっただけ……」
セフィロスはもう自分が何を言っているかすら分かっていない。追い詰められて意地を張ることを放棄した彼は、とても素直で無垢だった。
「そっか……。ごめん、不安にさせちまったんだな」
ザックスは腰の動きをゆるめながら、セフィロスをしっかりと抱きしめてやる。碧色の瞳が、ザックスを真っ直ぐ見つめ返す。
「俺にはお前だけだ。お前が一番大切だよ。セフィ、愛してる」
「ん、おれも……愛してる」
ちゅっ、と触れるだけのキスをしてやった。
「他は? 何を隠してるんだ?DVD見つけたことで、そこまで言いたくないと思わないだろ?」
「ん……そ、れは……」
「うん……?」
セフィロスは真っ赤になってもじもじとし、なかなか口を割ろうとしない。焦れたザックスはセフィロスの縛られて震えている性器を数回しごいてやった。
「ひあああっ! あっ! 言う! 言うからっ……!」
セフィロスは涙を流しながら陥落する。
「あのDVD、見たんだ。そしたら……、なんとも思わなかったのに、お前がやったのと同じことしててっ、お、思い出したんだ……!」
セフィロスはもう穴があったら入りたいと思った。恋人に自分が自慰行為をしたことを告白させられる。たまらない羞恥を覚えた。
「思い出して、どうした?」
「……抜いた! 自分で、処理した……っ!」
碧の瞳からは涙が溢れる。
「俺のやり方思い出しながらしたの?」
「……そうだと言っている……!」
「……ちゃんとイけた?」
「っ! ……だから普通だっただろうが」
お前が帰って来た時には。
ザックスはある種の感動を覚えた。セフィロスが俺の隠し事で不安になった。他に好きな人ができたと思ってやきもちを妬いた。エロDVDを見た。興味もなかったのに、自分とのセックスを思い出してエレクトした。自慰をした。
普段取り澄ましている彼からは想像もできないアレコレ。可愛すぎる。ザックスは心底あのDVDを寄越したジェネシスに感謝した。
「セフィ、よくできました、だな。教えてくれて嬉しいよ」
今度から、欲しくなったら言えよ、自慰なんてしないでセックスしよう。ザックスはそう優しく耳元で囁く。お前はいなかったくせに、と拗ねたような返答。
「セフィロス、じゃあちゃんと言えたご褒美だ。それと、この前の復習と、あのDVDのおさらい」
「……?」
「あれ?最後まで見なかった?」
セフィロスはこくりと頷く。
「俺がアレ隠してた理由だけどさ、お前とのセックスの参考にしろって、ジェネシスに借りたんだよ」
「!!!」
ジェネシスめ、余計なことをしてくれる……。セフィロスの脳裏にジェネシスのいたずらっ子のような顔が思い浮かぶ。
「だからこっそり見てお前に試そうと思ってたんだけど、見てないんなら丁度いいや」
俺が全部教えてやる。ザックスはそう言うと、セフィロスの戒めを解いてやった。
その後、セフィロスは本当にザックスの良いようにされた。前回のおさらいとは、この前と同様に卑猥な言葉で強請らされるというものだった。言いたくないと拒否すれば、乳首や太ももを攻められて、決定的な刺激は与えられず、泣く泣く何をどうしてほしいのか、事細かに言わされた。どこが気持ちが良いのか、指が何本欲しいのか、どこをこすって欲しいのか……。最後にザックス自身を強請らされた時には、羞恥で気絶するのではないかと思った。
そして、DVDのおさらい。これが一番辛かった。
「いやだ! そんなことできない!」
「じゃあ、もう欲しくないの?」
「───────!!!」
ごろりと横になったザックスに自ら跨り、彼の屹立を手で支えながら、自身の秘所へと導く。騎乗位、というやつでの結合を経験させられたのだ。
「かはっ! ……ざっく……くるし……」
初めて自ら挿入するため、うまく呑み込むことができずに、セフィロスは悶える。
「ゆっくり息して……そう、うまいぞ。ちょっとずつ腰を落とすんだ」
ザックスの見事な腹筋にぺたりと手を置いて、足の力だけで自重を支えながら、ゆっくりとセフィロスは腰を落とす。ゾクゾクと背筋を快楽が這い上がり、髪を振り乱して背を反らせたその時だった。
「……っあ!! あああっ!!」
セフィロスはバランスを崩してザックスの上に座り込んでしまった。ずっぷりと深くまで自らを穿ってしまったセフィロスは、その衝撃で達してしまった。
「……っは、エロいなあんた。いいぜ、そのまま自分で動いてみな」
セフィロスはもう羞恥も忘れ、自身の快楽を追ってイイところにザックスを擦り付ける。
「ザックス……あ、あん……」
気持ちイイか? セフィロスは顔を上気させ、涙を流しながらザックスに問いかける。
ああいいよ、たまんない。ザックスはセフィロスの前を優しくしごいてやりながら、自らも腰を揺らす。
程なくして、ザックスは果てた。自らの最奥に熱い飛沫を叩き付けられる感覚で、セフィロスもまた頂点を極めた。セフィロスはザックスの胸元に倒れこむ。しばらく2人して荒い息を吐きながら、お互いを抱きしめ合う。
「セフィロス。俺は、お前のどんな部分も見たいんだ。全部愛してるよ。ずっと、ずーっとだ」
セフィロスはぴたりとザックスの心臓に耳を当てる。トクン、トクンと規則的な音を聞きながらザックスの体臭に包まれてたまらなく安心する。
「ザックス……。おれも」
─────愛してる。
セフィロスはそっと目を閉じ、眠りの世界に落ちて行った。
後日、これまたよく晴れた昼下がりのこと。神羅カンパニー本社ビルの廊下をセフィロスは歩いていた。その頭の中は、次の作戦の事で一杯だ。
セフィロスが来たぞ。
相変わらず素敵ね。
例のごとく、行き交う人々が足を止めて、彼に見とれる。そこへ、ジェネシスがやって来た。
「やあセフィロス。相変わらず麗しいな」
「ジェネシス……」
セフィロスはこの間の騒動を思い出して俯く。彼の顔をまともに見られない。
「その分だと……、子犬に貸したものが何か、分かってるみたいだな」
「!!!」
「どうだ、快かったか? お前も、なんかあったら言ってくれ」
ははは!と 愉快そうに笑いながら去っていく足音。セフィロスはしばしその後ろ姿を見つめ、先ほどよりもやや乱暴な足取りで会議室へと消えて行った。
Fin
20150828