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恋人を待つ時間

 

「じゃあ、セフィロス、行ってくるね」

「ああ、気をつけて行けよ」

「へーきへーき! そんなに大変な任務じゃないから。あ、俺がいない間もきちんとメシ食いなよ?」

「ああ」

「寂しい思いさせてごめんね。ちゃんと電話するからさ」

「それはお互い様だろう? 忙しいだろうし気を使わなくて構わない」

「いーや! あんた寂しがりやだから、置いていくの嫌なの。あと、素直にしなさいっていつも言ってるでしょ? 本当は寂しいくせに」

「……」

「電話、するからね。じゃあね」

 それからクラウドはおれにキスをして、髪を少し弄んでから任務へと向かった。

 

 おれは、寂しそうな顔をしているんだろうか。あるいは、寂しそうな言動をしているんだろうか。

 クラウドを見送った後、ラザードに呼ばれて統括室に向かいながら、自分の日頃の言動について思い返してみる。 

 おかしい、全然思い当たらない。そんな素振り見せた覚えがない。

 ポーン、という軽快な音が、目的のフロアへの到着を知らせた。入り口のインターフォンを持ち上げると、数回コール音が鳴った後、秘書が応答した。

「セフィロスだ、ラザードに呼ばれている」

 少々お待ちください、と事務的な声がしてから、ロックはすぐに解除された。室内に足を踏み入れると、執務デスクについた統括に迎えられた。

「やあ、セフィロス。忙しいところ、呼び立てて悪いね」

「構わない、丁度手も空いていた」

「そうか、それなら良かった。まあ、かけてくれ」

 勧められるまま、応接セットのソファに座る。ラザードも向かいに移動してきた。

「セフィロス、次にきみにお願いしたい任務についてなのだけれど……」

 モニターに概要が映し出され、ブリーフィングが始まった。

 

 ブリーフィングの内容は思ったよりも簡単で、ものの30分も掛からずに終わった。首を回しながらメガネの位置を直すラザード。クラウドに言われた事、訊いてみようかな。ラザードになら訊いても良さそうだ。

「あの、ちょっと訊きたいんだが……」

「どうした? 何かわからない事があったかい?」

 あ、これはさっきの任務の内容についてだと思っているな。

「いや、違うんだ。任務とは関係ない事で……」

「おや、珍しいね。きみが任務以外で私に訊きたいことなんて」

「ああ……いや、やっぱり……」

「ああ! ごめんごめん、そんな意味で言ったんじゃないよ。どうしたんだい? 何でも言ってみると良い」

「……すまないな。えっと、その……。お、おれは寂しそうか?」

 言ってから、恥ずかしくなって俯いた。ラザードは一瞬驚いたように目を丸くした後、嬉しそうにニッコリと笑った。

「やはり……その、変なことを訊いてしまったか?」

 少し空いた間におれは不安になった。やはり言うべきではなかったのか……? だが、そんな考えはすぐに打ち消された。

「いや、違うよセフィロス。こう言っては失礼だが、氷の英雄と言われているきみからそんなかわいい事を言われて、私は嬉しいんだよ」

 嬉しい? 意味が分からない。

「ああ、訳が分からないかな? きみは普段人間らしい部分をあまり人に見せないから、安心したんだ。私に訊いてくれて嬉しいよ」

 そういうものなのか? まあ、良いか。考えてもおれにはよく分からない。

「……で、どうだ? 寂しそうな言動をしているのか?」

「いや? さっきも言ったがきみはあまり人間らしい部分を人に見せない。少なくとも、私の前で寂しそうだったことは無かったな。誰に言われたんだ」

 マズい、ここは誤魔化した方が良いだろう。

「……いや、分かった。ありがとう」

「セフィロス?」

 少し首を傾げているラザードに礼を言ってから、統括室を後にした。

 

 ふむ。おれは別に寂しそうな素振りは周りに見せていなさそうだ。クラウドに言われたあれは何だったんだろうか。

 その日の任務を終えて自室に戻り、まずは武装を解除して衣服を脱ぎ、シャワーを浴びる。汗を流したら、心までさっぱりした。

 そしておれは、寂しい言動問題を忘れることにした。ベッドにごろんと転がって本を読んでいれば、やがて睡魔がやって来る。あと何回1人寝をすればクラウドは帰って来るんだったか。ああ、今晩を入れて3回だ。そんな事を考えていたら、いつの間にか眠りについていた。

 

  次の日の夜。昨晩はクラウドからの電話が無かったから、今夜は掛かってくるかと思っているのに、まだ来ない。時計をみれば既に深夜と呼べる時間帯に差し掛かっている。

 ……何かあったんだろうか。いや、たいした事ない任務だと言っていたではないか。きっと忙しいんだろう。……万が一という事も考えられる。急に不安がこみ上げてきて、携帯を取り上げ、クラウドの番号を呼び出す。

 コールしようとして……やっぱり止めた。

 クラウドは、電話をする、と言っていた。だから、待ってみようと思う。きっと無事に違いない。おれに電話をかけてきて、ごめんね忙しくてさ〜、なんて言うに違いない。

  ……クラウド。ころんと寝返りを打って仰向けになった。前髪が顔にかかったのを手で払い、ため息をつく。

 ……なんだか、急に、クラウドに逢いたくなってきた。クラウドの事を考えてたら、体が熱くなってきた。そろそろと、上掛けの中に手を入れ、自身をパジャマの上から押さえてみる。とたんにツキンと快感が走った。

「クラウド……」

 ……ダメだ、我慢できそうもない。

 

 「……は……ん……くぅっ……」

 上掛けを跳ね除け、下半身の衣服を全て脱いでしまって、久しぶりの自慰に耽る。目を閉じて、クラウドに日頃与えられている快感を思い出しながら、忙しなく自身を擦る。

「……っん……はぁっ……」

 恥ずかしい声がひっきりなしに口元からこぼれ落ちるが、最早火照ってしまったら体を止められるはずも無かった。

 クラウドの指は、おれをいつもこうして……。空いている方の手を胸にそろそろと持っていく。さわさわと胸全体を撫でると、くすぐったいような快感がやってきた。そのまま乳首をキュッと摘んでみる。

「はっ……!」

 鮮烈な快楽が全身を駆け抜けた。でも、決定打にはならない。

 ……やはり、やはりアソコを弄らないとダメなのか……? アソコを自分で弄るなんて、そんなことできない。恥ずかしすぎる……! だが、体がキツイ。もう、欲しくて欲しくて仕方ない。

「ああっ……クラウド……!」

 もう、ダメだ……! 乳首を捏ねていた手を胸から離し、ローションをたっぷりと指に絡めると、そろそろとためらいがちに下の口に持っていく。

「ひっ……」

 クラウドは、いつも、こうして……。数回蕾を撫でてから、くぷりと指を挿入した。

「あっ……くぅ……」

 いきなり奥まで挿入するのは苦しいから、ゆっくりと息をしながら全身の力を抜こうとする。少し余裕ができたところで、ゆっくり、奥まで1本目の指を挿入する。

「ん……っひ!」

 あ、ココだ……! 気持ちがいい場所に当たった。ソコを捏ねるように刺激すると、ぬちゅぬちゅと淫猥な音が聞こえてくるのが居たたまれない。

 だが、求めていた快楽の波がゆっくりとやってくるのを感じる。その後はもう、段々と何も考えられなくなり、ひたすら解放を追いかけた。やがて3本の指で自らの弱点を攻め立てる。

「んんっ! ああぅ……あん……」

 うつ伏せて腰だけをあげた姿勢で自慰に耽る。ぷちゅ、ぐちゅ、と水音が鼓膜を犯す。

「……! あ! あ! イクっ……!」

 ようやく、高みに到達して、目も眩む真っ白な世界に放り出された。

 

「は……クラウド……」

 早く、帰って来い。

 

 携帯電話の着信音が鳴り響いた。

 慌てて通話ボタンを押し、耳に押し当てる。待ち望んだ声が聞こえてきた。

「セフィロス? 元気にしてた?」

「ああ。そっちはどうだ?」

「それがさ、野営地が電波入らなくてさ! びっくりしたよ! 通信網の故障だって! 今やっと復旧したんだ」

 ……なんだ、そういう事だったのか。

「そうか。大変だったな」

「電話、遅くなっちゃってごめんね」

「いや、無事なら良い」

「心配してくれてたんだ?」

「……当たり前だろう……?」

「……寂しかった?」

 この前の、別れる前の言葉だ。どういう意味なんだろう? 訊いてみようか……?

「なあ、この前」

「うん?」

「おれが寂しがりやって話。おれは寂しそうな事を言ったりしたりしているのか?」

「……えぇ? なんで?」

「この前言ってたじゃないか。ラザードに訊いてが、おれはそんな素振りしていないそうだ」

「ふふふ。統括に訊いちゃったの?」

「ああ」

 あれ、何かまずかったのか?

「……やった。じゃあ、あんた俺の前だけで寂しがってるんだ。嬉しいな」

 クラウドが嬉しそうに言う。なんだ?余計に分からなくなった。

「どういう事だ?」

 クラウドが笑った。

「だから、あんたは俺の前だと寂しがってるの。例えば、任務で少し離れる時とか、俺が友達とメシに行く時とか、後は……ベッドで俺がシャワー行く時とか……」

「ばっ……!」

 思わず受話器を押さえて周りを見渡してしまった。何をやっているんだおれは、ここはおれの部屋だ。

「クラウド! 恥ずかしい事を言うな!」

「なーに? 照れてんの? かわいいなぁ、もう」

「……! おい、よせ……!」

「かわいいよ、あんたは。素直になれないところも、不器用なところも。チョコボの枕がお気に入りなところも、辛いものが食べられないところも、猫舌なところも。あと、感じてる時もね」

 セフィロスは耳を塞ぎたくなった。

 クラウド、あいつ最後わざと低い声で囁いた。いやだ、なんかぞわぞわする。

「……感じちゃった?」

 くそ、もう切ってやろうか。通話終了ボタンを押そうとして、結局名残惜しくて押せなかった。

「クラウド……」

「うん?」

「……早く帰って来い」

「……どしたの? 素直じゃん。……寂しい?」

 ダメだ、完敗だ。

「……ああ。……寂しい……」

「……セフィロス」

「早く、帰ってきておれを抱け」

「っ! セフィロス!?」

 クラウドがびっくりしている。いつも、たまにはそっちから誘えって言うしな。

「うわーーー! 今すぐ帰りたい! 本っ当に帰りたい!」

「焦らなくても明日には帰ってくるだろう?」

「あんたが早く抱けって言ったんだろうが」

 クラウド、そこに誰も居ないんだろうな……?

「ああ。じゃあ、気をつけて帰って来いよ」

 うん、またね、と返ってきてから通話を切る。

 あと1晩。今夜だけ。そうすれば、またあの温かい胸に顔を埋めて寝られる。

 

  翌日クラウドが帰宅して夜の時間になだれ込んだとき、1人エッチの中身がばれて散々いじめられたのは、また別の話。

​Fin

​20150921

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