ラブ・トラップ!
「なあ、セフィロスってさあ」
「なんだザックス」
「女の子抱いたことあるの?」
「……」
「え、まさかない!?」
「ノーコメント」
「マジかよ! 英雄ともあろう男が?」
「お前と違って身持ちが固いんだ」
あ、ないって認めた。こういうとこちょっと天然だわね。それにしてもとっても意外。今はそういう関係になっている女の子がいないって知ってるけど、一度もなかったとはね。
そして嬉しい。完全に俺が初めての相手ってことだろ? 最初で最後にしてやるぜ。
ザックスは喜んだが、セフィロスはふい、とそっぽを向いた。ヤバイ、これはあれだ、機嫌が悪くなったぞ。
「違うって、全部過去のこと! 今はそんなことしてないから!」
「当然だ。もし今でもフラフラしててみろ、八刀一閃食らわして別れるからな!」
「だから、違うって言ってるじゃん!」
ふん、とこちらを切れ長の怜悧な目元が流し見た。あ、怖いけど色っぽい。
「てことはさあ、あんた、自分でコンドームとかローションとか買ったこともないよな?」
「……」
セフィロスはちらりとザックスを見てから、呆れたため息をついた。
「ザックス、お前はいつもホントーにくだらないことばかり言うな。よし、今からトレーニングルームへ行くぞ。その腐った根性叩き直してやる!」
「ちょっと! 待って待ってターンマ! 別に良いじゃんか、ちょっと訊いてみただけだって! 他意はねえよ!」
不貞腐れたような仏頂面のセフィロスを見て、俺は悪戯心を起こした。
「じゃあ、さ。今度自分で買ってみてよ。そんでセックスする時それ使おうぜ」
セフィロスの目元が再びキツくなる。よし、良い感じ! ここで一気に畳み掛けるぞ!
「それとも、やっぱ恥ずかしくって自分じゃ買えない?」
ニヤリとわざとイヤラシイ目つきで笑って、セフィロスを挑発する。
「ザックス、バカにするな……」
お、これはイケるか? 言うのか? 続くのは俺が期待した言葉。
「それくらいおれにだって買える!」
よっしゃ! 言質取った! 小躍りしたい気分だぜ。
こいつは普段仕事だとか人前では恐ろしいほど冷静なくせに、俺やもう二人の1st相手だと途端に可愛くなる。ムキになったりふざけてみたり、ちゃんと英雄も人間してる。
「よし! そう来なくっちゃ! じゃ、調達よろしくな」
「ーーーー!」
セフィロスははっとした顔になる。そして自分がまんまとザックスの罠に掛かったと分かったのだろう。悔しそうな顔をしてこちらを睨んでから、おもむろに立ち上がってさっさと執務室を出て行った。
ザックスはその後ろ姿を下心に満ちた非常にだらしない顔で見送った。それから、はたと気づく。
調達しろとは言ったものの、セフィロスのやつどこで調達するだろうか。そもそもどこに行けば買えるのかあの天然ボケは知らないままに出て行ったのではないだろうか。
「さすがにネットで買うように言ってやんないとな」
ザックスはモバイルを取り出すとセフィロスにメッセージを打ち始めた。
To Sephitoth
さっきの話、ネットで売ってるとこ教えてやるからそこで買えよ。
間違ってもジェネシスには訊くなよ?
あいつのことだ、面白がって英雄に悪戯しようと画策するぞ。
From Zack
「送信」
画面にメッセージ送信完了のサインが表示される。
ジェネシスに訊こうものなら大惨事だ。きっとあいつはアダルトショップを教える。そしたらその店員から英雄がアダルトショップに来たことがバレて、やれ相手は誰だとか英雄は夜も英雄なのかとかマスコミがいらない大騒ぎをして、スキャンダル必死だ。
「そっか、だから女の子抱いたことないのか」
妊娠した、とか言われそうだもんな。
英雄も不自由なもんだ、とザックスは思う。ま、心配ご無用。今は俺と仲良しだからな。
売り言葉に買い言葉でついつい言ってしまった。おれは今とても後悔している。ああ、あんな事言うんじゃなかった、おれだってコンドームやローションくらい買えるだなんて!
まんまとザックスの罠にかかったと気付いたのはあいつのにやけた顔を見た時だった。あのだらしない顔と言ったら!
セフィロスはずんずんと廊下を歩く。大変なことになってしまったという内心の焦りが出ているのだろうか。心なしか歩調がいつもよりも速くなっている。
途中でモバイルの通知音が鳴って、開いたらザックスからのメッセージだった。さっと目を通すと再びモバイルをコートのポケットにしまう。
しまった、もう少しでジェネシスに訊くところだった。危なかった。それにしても、買い方を教えてまでおれに買わせたいのかあいつは。全く仕方がない駄犬だ!
そしてセフィロスは決意する。こうなったら絶対自分で買ってやるぞ! ザックスに馬鹿にされてたまるか!
こういう思考こそが相手の思うツボなのだとは気づけないセフィロスだった。
「ここなら種類も色々あるし、良心的だから」
仕事が終わった後、ザックスがセフィロスの部屋に遊びに来ていた。もちろん昼間の会話の「アレ」について、セフィロスにネットショップを教えるためである。
「別にゴムとローション以外でも、使ってみたいのがあったら買って良いんだぜ?」
「な……ふざけるな!」
昼間は不機嫌そうな顔をしただけだったセフィロスも、露骨なモノが並ぶ画面を見たからか顔を赤くしている。
「どーしてそんなに怒るのさ。成人男性なんだから、さして珍しくもなくね?」
その言葉は本意ではなかった。ザックスは知っている。セフィロスがこんなサイトを初めて見たことを。この恥ずかしそうな顔本当にたまんないな! セフィロスはまるで少女のように恥じらい、年下のはずのザックスはまるでエロオヤジである。
「ま、この中から好きなの選んでよ。それで今度それ使ってセックスしような」
じゃあな、とザックスはセフィロスの部屋を出ようとする。セフィロスは少し意外に思った。てっきりザックスも一緒に選ぶと思ったのだ。だが、「一緒に選ぼう」とも言えず、結局そのままザックスを見送った。
ザックスは上機嫌で自分の部屋へと向かった。今にもスキップし始めそうである。
あいつがどんな顔で選ぶのかと思うともうニヤニヤが止まらない。今頃顔を真っ赤にしながら、自分が使われる事を想像しながら選んでるんだぜ? 早く届くと良い。存分に言葉責めってのをしてやるんだ。
荷物はというと、セフィロスが注文してから二日後に届いた。セフィロスはそのことは教えず、ザックスをただ部屋に誘った。二人で食事をして、代わる代わるシャワーを浴び、少しソファでイチャイチャして良いムードになった辺りで、寝室へともつれ込んだ。
「ザックス……」
セフィロスは、予め開封して準備してあったコンドームとローションを持ってベッドに上がった。
「……セフィ、頼んだモノ来たんだ?」
こくり、と頷く。そして、おもむろにコンドームの小さいパッケージを口に咥えて、ベッドに座りザックスを上目遣いに見上げた。
「ザックス……抱いてくれ……」
「うお……ちょ、セフィ! どこでそんなこと覚えたんだ!?」
焦るザックスに気を良くしたセフィロスはくすくすと笑う。
「内緒だ」
「おい、ちゃんと答えろよ。どこで覚えたの?」
「だから、お前にはナ・イ・ショ」
セフィロスとしては、今回はまんまとザックスに嵌められたので、仕返ししてやりたかった。恥じらっては相手が喜ぶだけだ。だったら思いっきり誘惑してやろうと考えたのだった。
「ザックス、そこに座れ」
セフィロスはザックスをベッドに座らせると、コンドームの封を口に咥えて、ザックスの目を見たままで指でゆっくりと封を切る。そしてザックスの寝間着の下履きとボクサーショーツをずらし、まだ萎えている性器を取り出した。それから、ゆっくりと性器に舌を這わせる。
「う……」
上目遣いにザックスを見ながら、相手の股間に顔を埋め、口で性器を育てる様は淫蕩な蛇のようだった。口内でゆるゆると愛撫し、時折ちろちろと先端を舐める。
「あんた……上手くなったな……」
はぁ、とザックスの口から熱い吐息が漏れる。ある程度まで育てると、セフィロスは目の前の砲身にコンドームを被せた。
「これ、被せることはできるんだな」
ザックスは自分の股間に目をやってセフィロスに言う。セフィロスはふふんと笑った。
「誰に教わったか訊かないのか?」
「……お前、ホント悪い子」
お互いクスリと笑い合い、駆け引きの視線が絡む。そして次の瞬間、ザックスがセフィロスを押し倒した。
「セフィ……、膝立てて」
「ん……」
ベッド横のテーブルに置かれていたローションのボトルを手にする。
「セフィが選んだのは……いちごの香り? 随分可愛いの選んだな」
「……いい匂いかと思ったから」
「ああ、あんた甘い香り好きだもんな」
意外だよね~、と軽い声がしたかと思うと、セフィロスは後孔にひやりとした感触を感じた。
「……っん!」
「ちょっといきんで」
セフィロスは言われた通りにする。どうすれば呑み込み易いか、こいつに嫌ってほど教え込まれている。
「あぅ……ひああ!」
くい、っと性器の丁度裏側、前立腺を押し上げられた。
「はい、ここが好きなとこね」
「やあ……はぅ……」
くちゅくちゅと濡れた音を立てながら、セフィロスの急所をいじめる二本の指。捏ねるように揉んだり、速くピストンしてやったりとセフィロスを追い込む。
「くぅっ……ふ……」
「こっちも?」
ザックスは指はそのままに、セフィロスの性器をパクリと口に含んだ。
「ひあああ! やあ!」
無防備に脚を大きく開いて下半身を曝け出し、性器を口に含まれ、直腸に指を呑み込まされて喘ぐセフィロス。
ザックスは自分に「女を抱いたことがないのか」と言った。
そうだ、自分は男に、こいつに抱かれたことしかない。それは男としてどうだろうか。
「ザックス……おれはおかしいだろうか」
「ん? 何?」
「おれは……お前に抱かれるのが好きなんだ」
ザックスはセフィロスが言いたいことを悟った。
「なんでおかしいわけ? あんたは最高だよ。俺だってあんたを抱くの大好き」
セフィロスは目を閉じた。そして小さな声で言う。
「ザックス……好きだ」
俺も愛してるよ、と嬉しそうな声が帰ってきた。
「ひあ! あううう!」
ザックスはセフィロスの性器をぺろりと一舐めすると、脚を抱えて後孔に自らの怒張を挿入し始める。
「は……ッセフィ、イイよ、力抜いてごらん?」
挿入の瞬間はいつだって苦しい。だが、同時に征服される喜びを味わうのも事実だった。
それに知っている。この瞬間を抜ければ、あとは死ぬほど気持ちが良いことを。
「あん! あうう! ひあん」
ぱちゅ、ぱちゅと濡れた音を立てながら激しい交接が始まる。
「それにしても」
ザックスが言う。
「あんたわりかし普通のコンドーム選んだな」
「……?」
「いや、もっとイボイボとかすごいのでも良かったんだぜ?」
あ、今度使ってやろうか?
ザックスに落とされた言葉に、セフィロスはザックスの腰に絡めた脚で思い切り締め上げてやった。
FIn
20160510