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 もしも。俺が貴方よりも……なんて、恐れ多いことは言わないから、同じくらいは強かったら。そしたら、俺が貴方を守ることもできるのかな。

 貴方と一緒にミッションに出るようになって久しいけれど、未だ戦闘時に於いては背中を預けてもらうまでに至らない。いや、戦闘時以外ならほぼ全部預けてもらってるけど……というか、強引に全てを把握させてもらっているけれど。

 どうしたら、もっと早く強くなれるんだろう。

 ——焦らなくて良いって言っているだろう?

 いつも言われる言葉が脳内で再現される。貴方の声と表情付き。情けなさを味わいつつも顔がニヤけそうになる。かわいい恋人のことを思い出して顔が緩むのは仕方ないでしょ。

 

 せめて、この腕がその体をすっぽり包み込んであげられたら。

 

 

 願い事

 

 クラウドはセフィロスの執務室へと急いでいた。

 何でも先日のミッションで拾った奇妙なモノがあり、解析のためにラボへ届けたいらしい。研究員に直接状況を説明したほうが話が早いのではないかと思ったが、セフィロスは宝条博士を避けている。鉢合わせしたくないから、極力ラボへは近づかないそうだ。

「失礼しまーす! これ、セフィロスからの預かり物です」

「ああ、待ってたよ!」

 研究員に小さな包みを渡す。上官兼恋人は先に話を通していたようだ。受け取った方はお礼を言いながら、そっと包みを開いた。

 出てきたのは虹色に光る球体。

「これって…?」

 見た事がないものだ。

「ああ、マテリアだろうね」

 研究員は、こんな色のものは見たことないな、と言いながら、興味津々といった様子で矯めつ眇めつ眺めている。

「なんでもミッション中に手に入れたとか」

「そうらしいです。セフィロスも見たことがないって」

「ふうん。これは面白いことになりそうだ」

 結果が分かったら連絡すると言われ、クラウドはラボを後にする。あのマテリアはどんな力を秘めているんだろうか。クラウドも結果には大いに興味があった。

 

 「これは独立マテリアだね」

 あの日から数日後の昼下がり。渡していた虹色の球体について、解析結果が出たとの知らせに、例のごとくセフィロスはクラウドを使いにやった。研究員はクラウドにもコーヒーを勧めて、自分の分をズズッと啜ってから、結果を話し出した。

「発動させると、一種のステータス異常を引き起こさせるみたいだ。このマテリアを身につけて願ったことが叶うことがある」

「ことがある……?」

「うん、どうも効果は一定ではないようだ」

 なんでも、研究員がマテリアの正体が気になって夜も眠れずに解析している時、そのマテリアを持ったまま、一眠りできれば良いんだけれど……、と思ったところ。気づいたら床で寝ていて、朝になっていたらしい。起きてから不思議に思い、はたと思いついて今度は、お金持ちになりたい!と祈ってみたが駄目だったという。願いの内容に内心突っ込みつつもクラウドは黙っていた。まあ、誰しも願うことではあるだろう。

「こんなもの初めてで、色々と試してみる必要がありそうだよ」

「ふーん。じゃあ、これは一旦セフィロスに渡しておく方が良いですか?」

「ああ、そうだな。サーに持っててもらって、ミッションにでも持って行ってもらって」

 クラウドは虹色のマテリアを受け取った。

「それ、成長すると良いんだけどな。なんせ一つしかないから」

「うん。また何かあったら報告しますね」

「ああ、宜しく」

「そろそろ行きます。コーヒーご馳走様」

 まだまだマテリアには謎が多いんだな。クラウドは自分の帰りを待つ上官兼恋人の執務室へと戻る。廊下を歩きながらセフィロスのスケジュールを思い出していた。次のミッションの説明で確か統括に呼ばれていたはず。それ以外は1日書類仕事だな。

 気がつけば、執務室前まで来ていた。

 「セフィロス? 戻ったよ……。ん?」

 中へ入って声を掛けるが部屋の主の姿が見えない。見渡せば、デスクに突っ伏している銀の頭があった。ありゃ、疲れてんのかな。少し寝かせた方が良いかもしれない。

 「セフィロス? ソファで横になって寝たら?」

 声をかけるも起きる気配がない。熟睡か、と何か掛けてやるものを探しつつ、その寝顔を覗き込む。けぶるような長い銀の睫毛。少し色づいた頬。誘うかのように少し開いてふっくらとした唇。ああ、ぎゅっとしたい。ソファまで抱いて運んで、しっかり腕に抱き込んで添い寝したい。

 クラウドが思ったその時。突然まばゆい虹色の光がハレーションを起こす。

「え!? な、なに!?」

 びっくりしている間に、徐々に光の洪水は引いていく。ほんの一瞬の出来事だった。一体何か起こったんだ。

 次の瞬間、クラウドははっとした。そういえば、マテリア!ごそごそとマテリアの包みを開くと、何の変化もなく、先程と同じ虹色の球体がころんと出てくる。

「……発動したのか?」

 クラウドが訝しみながらもマテリアを包みに戻し、ふと目に入った銀色を見ると。

「——っ!?」

 そこには、幾分縮んで華奢になったと思しき恋人が寝息を立てていた。

 着ている服がだぼだぼだ。

 まずい。目が覚めたらなんと説明しようか。セフィロスはパニックになりそうだし、怒るかもしれない。ああ、せめて解析結果を説明してから発動してくれれば良かったのに。これでは結果を聞かせるタイミングがないかもしれない。

 それにしても…。クラウドはセフィロスの寝顔を覗き込む。もともとの中性的な顔がさらに性別不詳になっており、繊細さも増している。体つきも華奢で小さくなっており、今なら抱きかかえる事もできそうだった。かわいい。後々の怖さを忘れてしまうくらいに、魅力的に変身した恋人。こんな形で願いが叶うとは!

 クラウドはそっとセフィロスを抱きかかえると、ソファまで運んで寝かせた。恋人は静かに寝息を立てている。クラウドがその唇に吸い寄せられるようにキスをしようとしたその時。

「…ん」

 身じろぎとともに、セフィロスがむずかるように小さく声を漏らした。規則的だった呼吸が乱れ、まぶたがゆっくりと開く。魔晄の瞳が、クラウドを捉えた。

「……クラウド?」

「あ、ああ……セフィロス、起きたの」

「ん……おれは寝ていたのか?」

「うん」

「……? おれは確かデスクに……」

 セフィロスはおかしいと思った。自分でソファに寝転んだ覚えがない。眠気にまだぼうっとする思考でなんとか考えようとするのだが、上手くいかない。はふ、とあくびをしてクラウドに聞こうとした時、先に答えが返ってきた。

「あ、その、ここには俺が運んだんだ……」

「……え……?」

 言われた意味が分からない。何だって?

「だから、その……、あんた、今ちょっと小さくなってて……」

「は……?」

 ぽかんとした顔のセフィロスに見つめられたクラウドは、セフィロスの手を取って立たせる。上掛けが滑り落ちた。

「な、な……!」

 セフィロスは唖然とした。

 自分の身長が、クラウドよりも小さくなっていた。

 

「宝条! ほうじょーう!」

 自分専用のラボで実験記録を見返していた宝条は、只事ではない声を聞いてファイルから顔を上げた。バタバタと走ってくる音がしたと思った次の瞬間、ラボの扉が開き、勢い良く何か黒いものが飛び込んできた。

「……セフィロス……?」

 はあ、はあ、とセフィロスは息を切らせている。なぜか服の裾を抑えているようだ。……なんだか具合がおかしい。

「……お前、そんなに背が低かったか……?」

 宝条が椅子から立ち上がりセフィロスの元へと歩み寄ると、おかしなことに相手の顔が目線の下にあった。セフィロスは涙目になりながら訴えかける。

「宝条! 助けてくれ! 起きたら、起きたらっ……」

 普段鉢合わせを嫌がって、宝条のラボはおろかマテリア生成用のラボにすらあまり寄り付かない彼が、必死で宝条その人に縋っている。華奢で背も低くなった彼には、普段とはまた違った美しさがあった。珍しく息子に頼られて内心嬉しい宝条。

「落ち着きなさい。何があったんだ、ん?」

 膝に手をついて少し屈み、視線を合わせて問いかける。これは何か面白いことが起こったに違いない。宝条は自分の好奇心に内心苦笑する。科学者の興味が我が子の心配よりも勝った。そのろくでもない思考を隠すかのように、手は絹糸のような髪を持つ頭を撫で、視線は穏やかだった。

 セフィロスが事の顛末を宝条に話し出した頃。ようやくクラウドが追いついて来た。

「はー、やっと追いついた! あんた本気で走ったら危ないだろ。弾丸みたいなんだから」

 セフィロスの横へと座る。

「博士、お忙しいところ突然すみません」

「いや、構わぬよ。どうもおかしな事になっとるみたいだな」

「このマテリアのせいだと思うんですよ」

「ああ、これかね。研究員が何やら言っとったやつだろう」

「ご存知でしたか」

「願いが叶う、ことがあるとか」

「これを俺が持ったままだったんです」

「クァクァクァ! さては君が良からぬ願望を抱いたな?」

「……そこまで、良からぬことではないです」

 セフィロスの頭の上で会話が行き来する。クラウドは、安心させようとその背をしっかり抱いてやった。いつもは自分よりも大きい背を抱いているだけに、新鮮だった。セフィロスの方も、自分よりも大きな腕に包まれる感触には慣れないが、これもなかなか悪くないと思った。

「元に戻るにはどうしたら良いんだ」

「そうむくれるな、セフィロス」

 宝条のメガネがキラリと光った。

「なんせ未知のマテリアだからな。その身で色々と試してみたまえ。クァーックァックァックァ!」

 さすが宝条。よくよく考えなくても、こんなこと面白がるに決まっている。セフィロスはここに来たことを後悔した。

 全く、おれは相当動転していたようだ。

「なに、そう心配するな。さすがにずっとそのままということもないだろう。そのうち戻る」

 全く根拠のない発言。だが仕方がなかった。この状況を打破する術を持った者など、誰もいなかった。

 

「こうなった以上楽しむしかないんじゃない?」

 上着を脱いでボトムも脱いで、クラウドは部屋着に着替えながらセフィロスにも自分の部屋着を渡す。これでも大きいだろうが、自分の物を着るよりはマシなはずだ。

「楽しむ、なんて悠長なことを」

 渡された服に袖を通しつつセフィロスはむくれる。元はといえばクラウドがおれを小さくしたんじゃないか。

「クラウド、いったいおれに何を願ったんだ」

「ん?」

 クラウドはセフィロスを後ろから抱きしめる形で床に座る。背中をすっぽりと包み込んでやりながら、鼻で髪をかき分けうなじにキスを落とす。

「デスクで居眠りしちゃったあんたを見てさ。ソファまで運んでやって、そのまま抱きしめて添い寝したいなーって思ったの」

 抱きこんでやりたいなって。耳を食むように悪戯されながら言われて、セフィロスはくすぐったく思った。なんだ、そんなこと言われたら、おれはもう怒れない。そんなことがお前の願いだなんて。

セフィロスは観念した。

「クラウド、キス」

 片腕を上げてクラウドの首に回し、後ろを振り返るようにしてキスをねだる。その瞳に悪戯するような色が宿っているのを見て、クラウドもセフィロスの意図を知る。

「ん……」

 どちらのものともつかない、小さなため息がこぼれた。唇が離れると、セフィロスを向き直らせて、今度は向かい合ってキスを交わした。

「ん……ダメなの?」

 そのまま押し倒そうとしたクラウドだが腕を突っ張って止められた。セフィロスは相変わらず悪戯な笑みを浮かべている。

「お預けだ。クラウド……この状況を楽しむんだろう?」

 ああ、そういうこと。

「じゃ、続きは夜だね。……デートしよ」

 了承の答えは頬にされた触れるだけのキスだった。

 

 クラウドのワードローブからセフィロスが選んだのはシンプルなコーディネート。少しオーバーサイズで着て髪をゆるく編み、帽子をかぶった姿は、ボーイッシュな女の子のようだ。喋りさえしなければ誰も疑わないだろうし、ましてや正体などバレそうにない。

「あんたと普通のデートなんて楽しみ」

 クラウドもカジュアルな私服に着替えて、二人は家を出る。玄関をくぐる時、セフィロスが屈んだ。それを見てクラウドは笑ってしまった。いつものクセ。頭がぶつかるから。

「ん?」

「いや、今は屈まなくて良いんだって」

「……そうか」

 本人も少し笑った。

 かわいい、と。愛しい、と、クラウドは心から感じた。それは甘さと同時に、どこか悲しみを帯びたかのような切なさ。この人の側を離れたくないと切に願う。

「ほら」

 クラウドは手を差し出す。セフィロスがキョトンとして見上げてきた。何をしようとしているのかが分からないらしい。そのあどけない表情にまた少し笑って、クラウドは白い手をしっかりと握って歩き出した。

「今日は列車に乗ろう」

「列車?」

「そう、スラムの方に行ってみようか」

「ふふ」

 楽しみだ、とセフィロスは微笑んで、握った手を握り返してきた。

 二人は「普通のデート」を楽しんだ。列車に乗って、街を散策して、食事をして。誰にも「セフィロス」だとばれずに気ままに人混みを歩いた。夜の帳が降りる一瞬前の夕暮れの街を歩きながら、セフィロスはクラウドをそっと見上げる。いつもと違う位置にある目線から眺める世界は新鮮だった。何より、クラウドが自分よりも大きい。人よりも頭一つ飛び抜けた身長の自分が、今日は雑踏に埋もれてしまう。混雑した列車の中では、自分を壁を背に立たせ、クラウドは守るように前に立ってくれた。今は、さりげなく腰を抱いてはぐれないようにしてくれる。

 クラウドはモテるだろう。セフィロスは思った。きっと女性からのアプローチは絶えないはずだ。顔は整っているし、性格も優しい。そんな彼がおれを選び、おれの横にいてくれる。なんだかくすぐったく思った。愛しいという、胸があたかかくなるような気持ちが溢れ出してくる。

「クラウド」

 セフィロスは問う。

「ずっと側にいてくれるか?」

「ん? どうしたの急に」

「うん」

「側にいるよ。あんたもずっと側にいてくれる?」

「ああ」

 クスリとクラウドが笑う。そのまま、腕を引っ張られて路地裏に連れ込まれた。どうしたんだ、と問う間もなく、首の後ろを支えられてキスをされる。冷たい外気にさらされた唇は冷えていたが、その分口内が熱く感じられた。深く貪られる。人々の目を盗んで、抱きすくめられながらの口付け。今まで、こんなことをしたことはなかった。

「そろそろ、帰ろうか」

 口付けの合間に、クラウドが囁く。またキス。

「……ん……?」

「したくなっちゃった」

 首の後ろを支えていた手がゆっくりと下に滑って行き、尻を揉まれた。

「ちょ……っクラウド!」

「誰も見てないよ」

 人々の話す声、車の走行音が薄暗い路地にも忍び込んでくる。辺りはもうすっかり暗くなっていて、街灯には明かりが灯り始めた。

 離してほしくて、セフィロスは身を捩る。あっさりと抱擁は解かれた。真っ赤になった顔でセフィロスはクラウド睨む。

「ははは!色っぽいだけだって」

 クラウドは全く悪びれない。かわいい、と言って鼻の頭にキスを落とされた。完全にペースを握られている。

「ほら、行こう」

 また手を握られ、二人で帰路へついた。

 

「は……んく!」

「セフィロス、力抜いて……」

 家に帰りついてから。

 クラウドは着衣のままのセフィロスを性急にベッドに押し倒し、服を脱がせるのももどかしく体をまさぐった。いつもと勝手が違う体を慎重に慣らし、ようやく体を繋ぐ。

「くっ………」

「苦しい?」

「だ……大丈夫、だ…」

 正常位で抱き合う。セフィロスは目に涙をため、必死でクラウドにしがみついてくる。上気した頬が扇情的で、クラウドはますます煽られるが、馴染むまでと動くのをなんとか堪える。

「ふ……ん……」

「……いつもと違うの……?」

「ん……ち、がう……いつもよりも、奥……に……」

「ああ……小さいからかな」

 言葉を交わしつつ、ナカが馴染んでくるのを待って、クラウドは動き出した。

「ひぁっ………あ!ああ!」

「ふっ………く、セフィ、ちょっと緩めて……っ」

「ああっ! ……無理、だ……無理っ……!」

 キツく締め付けられてクラウドの額に汗が滲む。セフィロスの足はシーツを蹴り、無意識にだろうがずり上がって逃げようとする。

「こら……っく! 逃げないの……」

 腰を掴んで引き戻し、さっきよりも深く突き上げてやる。

「ああっ!」

 セフィロスは喉を反らせて仰け反る。涙がこめかみを伝っていく。

「はっ……セフィロス……」

 クラウドは上体を倒して自分の下になっている体をしっかりと抱きしめた。腕の中にすっぽりと収まってしまうことに感動を覚えつつ、腰を使って攻めてやる。

「はぅっ……! あ、あ! もう……クラウドっ……!」

 涙目で限界を訴えてくる。セフィロスの腹がうねり、つま先がきゅうっと丸まる。熱い粘膜に締め付けられたクラウドも限界を迎える。

「セフィロスっ! ……一緒に……っ!」

「……あーーっ!」

 互いをキツく抱きしめ合いながら二人同時に絶頂へと駆け上がる。真っ白にスパークする世界に放り出された後、急速に落下していく感覚を覚えた。

 しばらくインターバルを置いて、荒くなった息を整えながら、第二ラウンドとばかりにクラウドは再び深く穿つ。

「い、や……! もう無理だ……っ、は、離せ……っや!」

「ごめん、もうちょっと付き合って、ね」

 セフィロスは力の入らなくなった体で抵抗しようとするが、体格差のせいもあって今日はこちらに軍配が上がる。押し返そうとする腕を一纏めにして頭上に拘束し、再度律動を開始する。

「くぅ……っ! ……あ、ん……」

 魔晄の瞳が次第に快楽に蕩ける。拘束している手を離しても、セフィロスはもう抵抗しなかった。

「ん……あんたのナカ、熱くてきもちい……」

 跳ねる体をしっかりと押さえ込みながら、クラウドは再度の高みへと駆け出す。セフィロスの弱いところをじっくりと擦ってやり、道連れにする。

「っく! ……ナカ、出すよ……っ!」

「ひっ……! あ……っ!」

 二度目の絶頂もほぼ同時に訪れた。クラウドが腕の中の恋人を見れば、彼は失神しているようだった。

「ん……ごめん、無理させたね……」

 聞こえていないと分かりつつも睦言を囁いて、クラウドは汗に濡れた前髪を掻き上げてやった。

 

 結局、あのマテリアの効果はよく分からず仕舞いだ。クラウドが朝目を覚ますと、横には疲れ果てて深く寝入っているセフィロスがいた。姿は元に戻っていて、背もまた自分の方が低くなっていた。

「まあ、望みが叶ったら効力が切れるということだろう」

 宝条は結果を報告しに来たクラウドにそう言うと、マテリアを回収した。きっと解析を進めるか、何かの実験に使うのだろう。

「ところで」

 宝条の声にクラウドは顔を上げる。

「このマテリアだが、名前がないのも呼びにくい。なんという名が良いと思うかね?」

「うーん……。夢が叶うわけだから、発動する魔法は……ドリーム?」

 ニヤリ、と目の前の白衣の男が笑う。

「ほう、なるほど……。では、マテリアの名前は『よくぼうのマテリア』といったところか」

「な……っ!」

「君はセフィロスに『欲望』を抱いたんだろう?」

 クァーックァックァックァ! 笑い声がラボに響く。

 

 今日も平和な神羅カンパニー。昨日の大騒ぎが嘘のようだ。

 ああ、それにしても小さいセフィロス可愛かった。ベッドに組み伏せても征服欲をそそったし……。もちろん普段のセフィロスが一番可愛いんだけど。クラウドは昨日のことを思い出してニヤけるのを止められない。

 

 「ヘックシュ!」

 セフィロスはその時、自室で盛大なくしゃみをしていた。

 

FIn

20150928

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