セフィロスがピクニックに行きたいと言い出した。普段、何かをねだることがない彼からの初めてのお願いだった。
けれど、私は彼を外には出してやれない。彼に対する執着と、また何処かに行ってしまうのではないかという恐怖。それから、狂おしいくらいの愛情。
セフィロス、もう私の手の中にいなさい。可愛い可愛い、私のセフィロス。
屋内ピクニック
「セフィ、ピクニックはダメだよ。外に出してあげられないんだ」
「……そうか」
シュンとした表情でセフィロスは窓の外を見る。エッジの街に再建した神羅ビル。セフィロスの部屋からは、街が一望できた。
あの災厄から数年が経ち、エッジはもうすっかり発展を遂げている。魔晄炉がないので緑が豊かな街になった。セフィロスは、この部屋から紅葉した木々を眺める中、研究員から聞き及んだらしい「ピクニック」をしたくなったのだろう。今までしてこなかった事に興味を持つようになった。
彼は「外に出せない」と言えば、必ず引き下がる。自分が災厄の元凶であったから、人前には出られないと思っている。このフロアと決められた場所以外には出られない生活に甘んじている。
しかし、本当はそんな事はない。あの原因がセフィロスだなんてほとんど誰も知らない。ただ殉死した事になっているだけ。私は彼の思い込みを利用している。彼を手放さない為ならば、どんな事だってしよう。
「セフィロス。そう悲しむな」
彼の座る椅子の横に立ち、優しく髪を梳いてやる。セフィロスはこちらを見上げて、少し目を細めて気持ちが良さそうにしている。猫の毛づくろいをしている気分になった。
「なんで急にピクニックなんだ?」
その猫によく似た瞳を覗き込み、優しく尋ねてやる。
「お前と……、赤い葉っぱを見ながら、お弁当というものを食べて見たかっただけだ」
言うと、少し赤くなってついと向こうを向いてしまった。
……驚いた。これがこんな事を言い出すなんて。しかも、この反応……。これは、落とせたと捉えて良いのか?
……良いんだな?
「ふふ、可愛い事を言ってくれるじゃないか。分かった。良い事を思い付いたから、待っておいで」
彼の唇を柔らかく食むような口づけを与えてから、研究員に彼を任せ、部屋を後にした。
夜。セフィロスの部屋へ戻る時、幾つかのものを持ってきた。
「……ただいま、セフィロス」
扉のロックが解除される音に反応したのか、側まで彼は寄ってきていた。
「おかえり。……?」
私が持つ「何か」を不思議そうに見つめる。きっと驚くだろう。私の方がワクワクしてきた。
「セフィロス、ほら。ピクニックしようか」
手元の包みを開けてやると、彼はあっ、と小さく声を上げた。出てきたのは小さな重箱に詰めたお弁当と、紅葉の葉。
「部屋の中で、ピクニックだ」
言って、そっと笑いかけてやると、彼がはにかんだ。
思わず、見とれた。まるで時が止まったかのような。ほんの一瞬、確かにその瞳に吸い込まれる感覚を味わった。
「ルー、ピクニックだ」
嬉しそうに重箱を開けて並べるセフィロス。満面の笑顔なんて浮かべない君だけど、確かに、今、喜んでいるだろう?紅葉の葉をバランス良く配置しようとしている。嬉しいんだろう?
「ああ、ピクニックだな」
「ありがとう」
「どういたしまして」
浮かれているのは私か君か。間違いなく両方だろう。だが私の方が君よりも喜んでいる。少しだけ、な。
私と共に、季節を愛でながら弁当を食べたいと言った君。いつか、その美貌に大輪の向日葵のような笑顔を咲かせよう。だから君、この手の中にいなさい。もう、何処へもいってはいけない。
Fin
20150925
FFオンリーで配ったペーパーでした