スパイス
粘着質に濡れた厭らしい音と、甲高い女の悲鳴。決して大きな音量ではないが、インパクトの強いそれは、静かな部屋で聞こえる唯一の音だった。ムードを出すためにと、ザックスに明かりを絞られた薄暗いリビング。テレビ台にはモニターが置かれており、音はそこから出ていた。あんあんあん、いやーっ! やめてえ! 薄っぺらい発光体から漏れる青みがかった明かりが、角度を変える。
そのモニターを見つめるのは、二人の男だった。ザックスとセフィロス。テレビから少し離れたところにはソファが置いてあり、そこはセフィロスがよく昼寝をする場所だ。普段は至極(しごく)のほほんとした用途で使われているソファの上だが、今は隠微(いんび)な空気が漂っている。なんと言ったって、恋人同士である男が二人で、エロDVDを見ているのだ。
ザックスがセフィロスの肩を抱きながら、太腿(ふともも)に手を置く。そのまま、いやらしい手つきで撫で回した。
「セフィロス、あんたもう前パツパツじゃん」
ザックスは太腿を撫でくり回していた手の平を、ゆっくりとセフィロスのズボンの前立を覆うように移動させる。そうして汗ばんだ手のひらできゅうっと彼の急所を押さえてやった。
「当たり前だろう。今一番いいとこだぞ」
性器を刺激され、はあ、と悩ましいため息をつくセフィロスは、クスクスと笑いながらザックスの前立に手をやる。
「……お前も人の事は言えないな」
「俺あんたより更に若いからね」
ザックスも、クスクスと笑った。
画面の中で絡み合うのは、男と女だった。彼らが男同士でこれからSEXをするからといって、男同士のものを見ている訳ではない。二人は時折(ときおり)、こうして一緒に男女もののエロDVDを見て、やれあの女が可愛いだの、胸がでかいだけではダメだのとやり合っていた。
彼らにとって、それは夜のコミュニケーションをする前の、スパイスのような物だった。勿論、相手が不在で自分で処理をする時も、このような物を使う事がある。けれどそれは一人でこっそりと楽しむ、或いは道具として事務的に使うだけのことだった。同じ物を見ていても、楽しみ方が全く違う。今この時の彼らは、互いに興奮を共有し、互いの体温を混ぜ合う時を想像し、モニターの中で繰り広げれる卑猥な演技を心から楽しんでいるのだ。
「女の子かわいいな~」
「ほう、お前はあれが好みか」
「あんたはもっと胸がある方が良い?」
「いや、胸より尻だな」
セフィロスは、ザックスよりも強い。背も高いし、横幅こそ細身でスレンダーだが筋肉質で、世界最強の男だ。そんな男がザックスに抱かれている訳だが、彼もやはり男である。女のエロを見せつけられれば興奮するし、自分で抜くときにオカズにもする。
ザックスは、そんなセフィロスに興奮するのだ。
まるで精巧な人形であるかのように美しく、彫刻であるかのように凛々しい黄金比の肢体。明晰な頭脳。圧倒的な、力。
それらを兼ね備える彼の、「生身」の男である部分を見ると、たまらなく唆(そそ)られる。
「セフィロス、あれやってみたい?」
「俺がされたいか、という意味か?」
「うん」
モニターの中で、胸をばいんばいんと踊らせている美女は、グロテスクなバイブを陰部に咥えて喘いでいる。
「興味はない」
「俺はあるんだけど」
「……ならば聞くな、どうせお前は無理矢理にでも突っ込むんだろう」
ザックスの答えに、セフィロスは諦めたような声を出した。
「ちょうだいって言わせたくて」
「いつも言っているだろうが」
「いや、バイブを」
「ほう……今度の訓練覚えていろ」
これが睦言なのか? という言葉が飛び出したところで、ザックスがDVDを止めた。
「そろそろ良いでしょ……」
「ああ……来い、ザックス」
セフィロスは仰向けに押し倒されながら、自分に覆い被さってくるザックスの頭を引き寄せて、深い口付けを贈った。
「んん……あぁぁ……」
今日は色々な体位を試したいと言ったザックスに、セフィロスは応える。仰向けに寝たザックスの男根をアナルに咥えた状態で、ザックスの上に更にセフィロスが仰向けに寝る。
「く……んあ……」
ぐいぐいと腰を突き上げ、性器を奥までねじ込んでくるザックス。セフィロスはびっしょりと汗をかき、ザックスの上で揺すられていた。
「これ、イイ……?」
ザックスの問に、セフィロスは喘ぐ声の合間に答える。
「んっ……体勢が……ふ、不安定……」
俺も腰がキツい、と笑ったザックスがセフィロスの腰を支え、自分の上から降ろして性器を抜いた。
「ひっ……」
「あんま気持ちよくなさそうだったな、次行こう」
「あ……ッ! ーーーー!」
セフィロスが身構える前に、ザックスは今度はセフィロスの体を横向きにして仰臥させ、上になった脚を抱えた。そして無防備に曝(さら)け出された後孔に、怒張しきった性器を突き入れる。
「はあんっ……はうう……」
「お、さっきより奥に行けて良いな」
ぬちゅ、ずちゅ、と先程モニターから聞こえた音を、今度は自分たちの恥部からさせる。脚を抱えてずんずんと突き上げられるセフィロスの上体が揺れている。その胸には、女優たちのような豊満な乳房はなく、代わりに引き締まった大胸筋がついている。
「でも乳首は一緒だな」
「ひあああ!」
色素が薄く、淡いピンク色をした乳首がコリコリと凝り、可愛がってとばかりに主張する。ザックスは望み通りにそこを優しく抓ってやった。
「あんん……は……っ!」
目を閉じて、解放の階(きざはし)を上り詰めようとするセフィロスに合わせ、ザックスも射精に向けてスパートをかける。セフィロスの性器が振り回されているかのように、プルンプルンとめちゃくちゃな方向に揺れながら、先端からは白濁が混じった透明な粘液を振り零す。
程なくして、セフィロスの胸に白濁が散り、後孔にはザックスの劣情が注ぎ込まれた。
「次、うつ伏せで寝て」
太い怒張を腹一杯に咥え込まされ、最奥を突かれ、前立腺を抉られながらする射精は凄まじい快感を連れてくる。セフィロスが余韻(よいん)で未だ動けず、ただ荒い息を吐くだけのところを、ザックスは強引にうつ伏せにして、腰だけを上げさせた。
「ひあああ!」
ザックスは、自身の性器を半分ほどまで埋め、丁度張り出したカリの部分で前立腺を引っ掛けるように擦る。
「あんた、後ろから挿れられるの好きだろ?」
「あ……好き! 好きい!」
「……欲しいか? おねだりは?」
「んんう……! ザックスの、ちょうだ、い……ッ」
言い終わるや否や、ザックスの怒張が再び根本まで蕾に埋められる。二つの袋が、セフィロスの会陰に押し付けられた。
ザックスはそのまま抽挿を始める。ぱちゅ、ぱちゅ、と卑猥な音を立てながら、腰を捻(ひね)りこむようにしてセフィロスの前立腺を抉ってやる。
「あああ! やあああ! ひいいいい!」
一緒にDVDを見ている時、セフィロスはよく、「この『いや』は嘘だな」と言っているが、今は自分が同じ状態だ、とザックスは笑う。
「ほんとに! 無理! むりい! あーーーーーッ!」
後ろを抉りながらペニスを扱いてやって、セフィロスを射精させる。その時の強烈な締め付けに、ザックスも持っていかれそうになるが寸でのところで堪(こら)えた。
「次、ちょっと体浮かせて」
「ん……」
セフィロスは快楽に啼きながら、抵抗せずにザックスに従う。
それはまるで、強烈な「スパイス」に酔ってしまったかのようだった。セフィロスは、ザックスに抱かれることを楽しんでいる。愛される幸せを、恋人の腕の暖かさを感じながら、ザックスと一つに溶け合いたいと思っている。
互いを対等な存在として、睦言を囁きながら、ただ二人で。誰にも邪魔されず、恋人同士の時間を過ごすのであった。
Fin
20160704