暗闇の中、アンジールの声がして俺は目が覚めた。でもそこにアンジールはいなくて、飛び込んできたのは一面の碧。ゴポリと音がして気泡が上がる。
悔しいけど、一番に思い出したのはセフィロス、あんたの瞳だった。
俺は狭い狭いガラスポッドの中に閉じ込められてて、隣のポッドにはクラウドが意識のないまま漂ってる。
俺、どうしちまったんだろうな。あいつらはもういないじゃないか。
アンジールは俺が殺したし、セフィロスはクラウドが殺した。
俺たちの夢と憧れを、自分たちの手で。
目の前のガラスを思いっきりぶち破って外に飛び出す。
こんな所に居てたまるか。まずはここを出ることだ。クラウドのポッドから魔晄を排出して、崩折れるクラウドを支えて忌々しい実験室を後にする。
実験室を出て気づいたのは、ここがニブルヘイムの神羅屋敷だってこと。なんで気づいたかは無視することする。思い出すのは辛い。だってセフィロスの目を盗んで探検に入ったのは昨日のことのようだから。
セフィロスもアンジールも、すごく優しい奴らだった。優しくて優しくて、とっても脆かった。
俺のかつての恋人、碧の瞳に銀髪の英雄を想う。
彼の弱さを、脆さを気づいてやれなかったのは俺の責任だろう。しかし気づいたところで、俺にどうにかできたかどうかは怪しい。だって、あいつの辛さは、結局のところはあいつにしか分からなかっただろうから。
隣に居てやることはできたのに。ギリギリまでは隣にいたのに。
やすやすとあんたをあっち側に渡しちまった。
「クラウド、とりあえずこれを着ろ。……似合うじゃないか」
俺より年下のお前が憧れて憧れてついに手が届かなかった夢の象徴を、自我のないお前に纏わせる俺のエゴを許してほしい。
銃弾が降り注ぐ。
全く、ソルジャークラス1stだってのになんで一般兵相手に手こずるんだよ。いくら多勢に無勢ったってこれはひどくないか?
知ってるさ。
俺がもう強化されてないってこと。
強化されなくなれば、力の代償を払うことになること。
俺はもう、これまでだってこと。
俺は、最期までもがいたぜ。
絶望に呑まれることなく、もがいて、泥の中を這いずり回って、今、命が尽きるこの時まで俺は諦めなかったぜ。
夢も、誇りも、正義も。ひび割れて色褪せて、それでも俺は手放しちゃいない。アンジールのしたように、俺もまた次に託すんだ。
でもさ、セフィロス。こうなって初めて、あんたの絶望と悲しみが少し分かった気がする。
俺たちは一体、なんのために戦ってたんだろうな……?
その答えはクラウド、お前の未来の中に探させてもらうぜ。
それからセフィロス。
俺はちゃんと、お前のこと、愛してたぜ。
Fin
20161116